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3月9日  【A3】

第22章 大白


 キャリーバックに詰めたのは、最低限のもの。
 フライヤーと、台本はちゃっかり持って。
 あと、三角くんから貰ったさんかくくんと…。

 不必要な物は、全部ゴミ袋につめて出しておいた。

 この時間で掃除機はかけられないので、コロコロを軽くして…よし。

 せめて一言くらいと、紙を出しペンを握ったがなんて書いていいか思いつかない。

 "探さないでください"とか、"お世話になりました"とか、はたまた"ありがとうございました"とか、"さようなら"とか、どれも違う気がして。
 綴くんなら気の利いた分の一つも書けるんだろうけど、生憎私にその才はないので。

 "鍵はポストに入ってます"

 これだな。
 と、書いて、部屋を出た。

 明日、咲あたりが見つけてくれるだろうなんて、無責任だな。

 朝を待つ外は、真っ暗で、昨日降った雪は少し残って。
 鍵を閉めた後、宣言通りドアポストへと入れた。

 「さようなら、お世話になりました」

 寮に一礼。

 とりあえずホテルでも探すかと、駅へ向かう。
 職場に近いところにしよう。









ーーーーー
ーーー






 昨日とは違い、着込んだおかげで寒空の下でも凍えることはない。

 …が。

 「あのぅ、大丈夫ですか?」

 白雪姫かってつっこみたくなるほど可愛い顔をし、真っ白い髪が雪に馴染んでる…って、分析してるところではない。

 一旦寮に連れてく?
 いや、鍵ポストに入れちゃったんだ。
 この時間だし、ピンポンするわけにもいかないし。

 「って、その前に救急車」
 「…だめ」
 「え?」
 「呼ばないで、寝てた…だけ」
 「こんなところで?」
 「そう、…眠くて」
 「酔ってる?」
 「酔ってない。…それに、このくらいの寒さ、慣れてる」
 「お家は?」
 「わからない」
 「じゃあ警察に」
 「行かない」
 「困ったなぁ。じゃあ、お名前は?」
 「…御影密」
 「わぉ、かっこいいお名前。私は佐久間芽李。
 行くとこないなら、一緒に行く?
 私も、行くところないんだ。というか、自分で出てきたの」
 「眠いから…いい」
 「風邪ひくよ?」

 反応なしか。

 「…じゃあ、朝になるまで一緒にいる」
 「なんで?」
 「1人じゃ寒いでしょ、余計なお世話かもしれないけど」
 「…」
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