第21章 白妙

　ざぁーっと、シンクに流れる泡を見ながら、考えたのは今までのことだ。

　あっという間の１年間だったな。

　途中で、北海道に帰っちゃったから、一年丸々ここにいられたわけじゃないけど、なんだかんだ楽しかった。

　あの日支配人に会えたのは、ラッキーだったな。

　天鵞絨町初めは読めなくて、カズくんに教えてもらったんだっけ。
　あれもラッキーな偶然だった。

　「あれ？芽李さん？こんな時間まで起きてたら、古市さんに怒られますよ」
　「っ、びっくりした、支配人こそこんな時間まで何してたんです？」

　噂をすれば、だ。
　噂っていうか、ただ私が考えていただけだけど。

　「私は楽器の整備です！
　いつ舞台で演奏するお芝居があるか、分かりませんからねぇ」
　「そうですか」
　「あぁ！もしかして、ホットミルクですか？？」
　「少し残ってますけど、飲みます？」
　「いいんですか？！やったー！いやぁ、あったかいもの飲みたかったんですよ！」
　「倉庫、少し寒いですもんね。温め直すので、座ってください」

　ミルクを温めながら、明日寮を出ることをどう切り出すか考えていた。

　「お待たせしました」
　「ほかほかですねぇ」
　「あつあつですよ」
　「ふぅーっ、…おいしいです」
　「良かったです」
　「芽李さんは飲まないんですか？」
　「えぇ…あの、支配人」
　「なんですか？」
　「明日、寮を出ることにしました。
　黙っていてすみま」
　「ぇええ？！」
　「声がでかいです。みんな起きちゃうじゃないですか！」
　「なんでです？！私何かしちゃいましたか？？」
　「いえ、違いますけど声がでかいなぁ！」

　幸い誰も起きてこなかったけど、とりあえず支配人には落ち着いてもらって。

　「北海道に戻ることにしたんです、咲とも会えましたし、支配人や左京さんの夢の先も見られたし」
　「夢、ですか？」
　「はい。まぁ、勝手にね…思ってただけですけど。
　この寮にまた人が集まってって、言ってたじゃないですか」
　「そうですけど、まだ冬組が全員集まったわけじゃないですし、借金も残りありますし、それから各組もう少し人数増やしてもいいんじゃないかって話も裏で出てますしぃ…」
　「それは、確かにそうですけど…」
　「芽李さんは、カンパニーの一員じゃないですか。寂しいですぅ」