第21章 白妙
どの口言うかって話だけど、低体温症の怖さは身をもってしったから。
いつか作ったホットミルク、誰かしらに会うかなって思ったけど、みんなそれぞれの部屋で過ごしているみたいで、案外誰にも合わなかった。
冷蔵庫からミルクを出す時、明日の料理の下準備がされていて、ホッとした。
やっぱりほら、大丈夫じゃん。
いい具合に温まったミルクを三角くんのお気に入りのマグカップに注いで、部屋に戻った。
「お待たせ〜」
「ありがとう〜。あったかいね」
「うん。やけど気をつけてね」
「あちっ…けど、美味しいですねぇ」
「そっか」
「ねぇねぇ」
「ん?」
「明日、どこか行くの?」
「…」
「いつ、かえってくる?」
「聞いてたんじゃないの?」
「さくやが、めいに呼ばれてるの見たから、そうやって入るのかなぁって思っただけ」
あっけからんというから、思わずポカーンっとしてしまった。
「ほんとうは、さくやが見送らないって言ったところから聞いたの。
嘘ついてごめんなさい」
「そっか…」
「また、北海道行くの?」
「…」
しみじみとカップを見つめる三角くんに、なんて言っていいかわからなくなる。
「北海道のさんかくおみやげ、楽しみにしてるから」
「さんかくのおみやげ?」
「うん。1日一個ね」
「1日一個?」
「お泊まりするごとに一個」
「えーっと、それじゃあ一年お泊まりしたら?」
「365こ。おまけで、366個。3で割り切れる」
「あ、うん。そうだね」
「楽しみだなぁ」
「本気?」
「…だって、引き止めちゃだめなんでしょ?」
夕焼けに似た三角くんの目が、私を捉えて、ひゅっと息を呑んだ。
「待ってるから、オレ。じぃちゃんとは違って、帰ってこられるでしょ、めいは」
「…」
「ごちそーさまでした!
おいしかったです」
「あ、うん。カップそこに置いてていいよ、あとで片付けるから」
「はーいっ」
ぴょんっと立って、おやすみ〜と出て行った三角くんの背中を見送りながら、一体何個の三角のお土産を買ったら帰ってこられるんだろうなんて、何考えてるんだ、帰ってこられる保証もないのに。
カップを洗ったら、荷造りをしよう。
咲に呆れられてしまっても、なんでも、行かなきゃ行けないことに変わりはないし。