• テキストサイズ

3月9日  【A3】

第21章 白妙


 「じゃないと、カンパニーのフライヤーも送ってあげられないから」

 そっぽをむいて言う、多分怒らせてる。

 ごめんね、こんなねぇちゃんで。
 何度も何度も思ったことだ。

 「咲ぅ…」

 私じゃなかったら、もっとうまくやれたのかな…とか。

 「それから、春組の公演の時でいいからちゃんと婚約者の人つれてきてね。
 オレからも挨拶させて欲しいので」

 出来のいい弟。
 大好きな弟。

 「うん」
 「明日何時に行くの?」

 咲も連れて行けたらいいのに、なんて、何もなかったら思うのに。

 「んー……」

 咲には咲の人生があって、あんな奴のためにその先を曇らせたくない。

 「朝早くとか言わないよね?」

 みんなのことも巻き込めない。
 もう十分、迷惑をかけているとは思うけど。

 「…」
 「みんなには言わないつもり?」
 「出ていくのは、流石にいづみちゃんには言ったよ!」

 言い訳をするようにそういえば、咲が顔を歪めた。

 「それなら、オレはどうすればいいの」
 「どう…って、」
 「ねぇちゃんが急にいなくなったら、みんなどう思う?」
 「どうも思わないでしょ、対して役に立ててなかったし」
 「バカ」
 「え?」
 「オレ、明日は見送らないから勝手に行けばいい。
 北海道行く時連絡して、一応心配だから」
 「咲?」

 むすっとして部屋を出た咲。
 怒らせた。
 馬鹿って言われた、あの子がそんな言葉使うなんて。
 いや、本当に馬鹿なんだけど。
 なんか、ものすごくずしっと来た…。

 「めい〜」
 「っ?!」
 「えへへ、ごめん。びっくりしたぁ?」
 「どっから来たの??」
 「窓開いてたから。オレ、屋根で猫さんとお月見してたんだけど、他の窓閉まってたから」
 「そっか」
 「入ろうとしたら、さくやの声聞こえてきたから」
 「いつから聞いてたの?」
 「えーっとねぇー、『ねぇちゃん、お待たせ』ってところから」
 「最初から聞いてたんかい。咲の真似上手だね」
 「ありがとう〜」
 「って、ずっとベランダで聞いてたの?」
 「そうだよ?」
 「寒かったでしょ!って、冷た!!
 ちょっと待ってて、あったかい飲み物とってくる!」

 ブランケットを渡し、包まるよう指示を出して急いでキッチンへと向かう。
/ 546ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp