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3月9日  【A3】

第21章 白妙


 「芽李ちゃん…」
 「これ以上、迷惑かけないから、行って?お願い…」
 「…っ、迷惑なんて思ってないのに」
 「いづみちゃん、私のセリフじゃないけど…よろしくね、みんなを」

 精一杯の言葉だった。
 無責任な言葉を無責任に押し付けて、…。
 いづみちゃんの背中を見送る。

 「明日になる前に、ゆっくり話そう」
 「時間があればね?」

 こんなにも悔しそうな顔をするいづみちゃんを初めて見た。

 「芽李ちゃん」
 「おやすみ、いづみちゃん」

 誰よりも、自分の狡さをわかっていたから。
 だから、布団を頭までかぶった。
 楽しかった、ここでの日々の終わりがもう、一寸先まで迫っていることを誰よりも知っていた。



ーーーーー
ーー


 「ねぇちゃん、お待たせ」
 「咲、」
 「どうしたの?、」
 「帰ることにした、北海道に」
 「え?」
 「急で、ごめんね.だけど、咲の消息もわかったし」

 春組がお風呂を上がるタイミングで呼びつけた。

 「いま?」
 「あー、ううん。これは、私の都合って言うか。
 明日には、寮を出ようかなって。
 ほら、あー、ほら、冬が来たら春を見たくなっちゃうでしょ、だから、…咲達のきせつだから、…だからさ、冬が終わる前に帰ろっかなって」
 「…冬組の公演は、見ていかないの?フライヤーも衣装も、楽しみにしてたんじゃないの?」

 楽しみだった。
 紬さんや、東さんのお芝居も見たかった。
 幸くんの衣装を、カズくんのフライヤーも、見たかったよ。

 「結婚は、春だよね?
 まだ、時間あるじゃん」
 「仕事先の店長に恩返ししてから行きたいんだ。
 戻るまで、そっちに集中したくて」
 「嘘つき」
 「嘘じゃないよ」
 「…至さんが、部屋から出てこないのと関係ある?」
 「ゲームしてるんじゃない?」
 「ねぇちゃんは、素直じゃないから」
 「その分咲が素直に育ってくれて、ねぇちゃん嬉しいよ」
 「ねぇちゃん」
 「なに?」
 「オレだけのねぇちゃんでいてって言ったら、北海道行かない?」
 「酷いこというね、」
 「酷いのはねぇちゃんだよ」
 「まぁ、たしかに」
 「…はぁ。もう、わかったよ。頑固だから、ねぇちゃんは。
 北海道でもどこにでも行けばいいんだ。
 けど、いつでも連絡は取れるようにしておいてね、オレにだけは」
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