第21章 白妙
「芽李ちゃん…」
「これ以上、迷惑かけないから、行って?お願い…」
「…っ、迷惑なんて思ってないのに」
「いづみちゃん、私のセリフじゃないけど…よろしくね、みんなを」
精一杯の言葉だった。
無責任な言葉を無責任に押し付けて、…。
いづみちゃんの背中を見送る。
「明日になる前に、ゆっくり話そう」
「時間があればね?」
こんなにも悔しそうな顔をするいづみちゃんを初めて見た。
「芽李ちゃん」
「おやすみ、いづみちゃん」
誰よりも、自分の狡さをわかっていたから。
だから、布団を頭までかぶった。
楽しかった、ここでの日々の終わりがもう、一寸先まで迫っていることを誰よりも知っていた。
ーーーーー
ーー
「ねぇちゃん、お待たせ」
「咲、」
「どうしたの?、」
「帰ることにした、北海道に」
「え?」
「急で、ごめんね.だけど、咲の消息もわかったし」
春組がお風呂を上がるタイミングで呼びつけた。
「いま?」
「あー、ううん。これは、私の都合って言うか。
明日には、寮を出ようかなって。
ほら、あー、ほら、冬が来たら春を見たくなっちゃうでしょ、だから、…咲達のきせつだから、…だからさ、冬が終わる前に帰ろっかなって」
「…冬組の公演は、見ていかないの?フライヤーも衣装も、楽しみにしてたんじゃないの?」
楽しみだった。
紬さんや、東さんのお芝居も見たかった。
幸くんの衣装を、カズくんのフライヤーも、見たかったよ。
「結婚は、春だよね?
まだ、時間あるじゃん」
「仕事先の店長に恩返ししてから行きたいんだ。
戻るまで、そっちに集中したくて」
「嘘つき」
「嘘じゃないよ」
「…至さんが、部屋から出てこないのと関係ある?」
「ゲームしてるんじゃない?」
「ねぇちゃんは、素直じゃないから」
「その分咲が素直に育ってくれて、ねぇちゃん嬉しいよ」
「ねぇちゃん」
「なに?」
「オレだけのねぇちゃんでいてって言ったら、北海道行かない?」
「酷いこというね、」
「酷いのはねぇちゃんだよ」
「まぁ、たしかに」
「…はぁ。もう、わかったよ。頑固だから、ねぇちゃんは。
北海道でもどこにでも行けばいいんだ。
けど、いつでも連絡は取れるようにしておいてね、オレにだけは」