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3月9日  【A3】

第21章 白妙


 「ごめんなさい」
 「…うん。わかった」

 ボロボロと落ちる涙が答えなはずなのに、私は頭を下げて等身大の告白も、すごく嬉しいのに、私のごめんなさいと言うたった一言で全部終わった気がした。

 いいんだ、これで。

 「芽李、俺が言ったこと、芽李を苦しめるなら、さっさと忘れていいからね」
 「至さん」
 「ん?」
 「ううん。なんでもない。お願い、あるんだけど…いいかな?」
 「なに?」
 「いづみちゃん、呼んでもらってもいい?」
 「わかった」

 パタンと、ドアが閉まる。

 至さん、私も初恋だったよ、なんて。
 こっそりと思うだけは許されるかな。

 いづみちゃんは割とすぐ来てくれた。

 トントンと、2回ドアが叩かれて遠慮がちに開く。

 「いづみちゃん、来てくれてありがとう。
 今回もお騒がせしてごめんね」
 「とんでもない、体調はどう?」
 「うん、大丈夫そう。
 …あのね、話があるんだ」
 「うん」
 「寮、出ようと思う」
 「え?」
 「あー、いやぁ、うん。
 冬組のね、公演終わってからにしようと思ったんだけど、そしたらすぐに春が来ちゃうでしょう?
 春は、咲達の季節で、私が1番…思い入れがあるから、…」
 「どうして?」
 「未練、断ち切れなくなっちゃうから。ごめん、劇団と関係ないことで、…どうせ、居ても役にも立てないんだけど、…MANKAIカンパニーのことはずっと好きだよ、ずっと応援する。
 居心地が良くて、長居しちゃったけど、本当は支配人に泊めてもらってただけなの。
 だから、…いづみちゃんが監督になってくれて良かった。
 支配人の悲しい顔、弱いんだ…わたし」
 「理由になってないよ、いつ行っちゃうの?」
 「明日にでも、荷物まとめる」
 「咲也君は?」
 「今日話す。みんなには、言わないで」
 「…芽李ちゃん、」
 「いづみちゃん今までお世話になりました。
 ありがとうね」
 「ん…」

 トントン

 「監督います?電話です」

 綴君の声。

 「あ、うん」
 「ごめんね、来てもらって」
 「ううん」
 「ほら、電話でしょ?」
 「うん」

 ずるいな、私。
 ごめんね、いづみちゃん。

 納得いかないような表情。質問もできないくらい、私が一方的に話して、タイミングのいい電話、って思った最低だ、私。
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