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3月9日  【A3】

第21章 白妙


 「6つしたの弟が、帰ってくるのを待ってるって。
 親戚に引き取られて行った弟と、俺を重ねるんだ、その子。
 だから、ほっとけなくて助けたって。
 笑っちゃうよね、あの時の6歳って結果差があったと思うのに。
 
 苗字までは覚えてなかったけど、その子の名前が芽李っていうことと、弟が咲也って名前だったことは覚えてたんだ。
 "咲也"って名前珍しいじゃん。
 だから、」
 「…」
 「待っても来ないなら、芽李を連れて俺が迎えに行けばいいっていったの、芽李は覚えてないかも知れないけど、…
 でも、結局芽李は自分で見つけちゃったね、咲也のことも」

 むくりと、布団から出る。
 至さんがどんな顔をしていたのか、少しだけ気になったから。

 「やっと顔見れた」

 そっか、至さんはこんな顔で私を見てくれていた、なんて、今更実感した。

 冷たい表情も、すっと消えた気がした。

 なんであんな一回のことで、気にして、留まって、本当に情けない。
 未練になるからやめて欲しいのに、安心しちゃう。

 「至さん…」
 「ん?」
 「私、言ったよ」
 「なに?」
 「結婚するって、言ったよ」
 「うん、聞いた」
 「至さんじゃない人と、するんだよ。
 その人は、その人は」

 言葉が詰まる。
 なんで優しい顔して聞くの、なんて、矛盾してめんどくさい気持ちが湧く。

 「至さんみたいに、ゲームしないし、ぐーたらじゃないし、メガネかけてて、インテリで、」
 「何それ、左京さん?」
 「左京さんより若い」
 「それで?」
 「スーパーマンみたいな人、」
 「…じゃあ、俺勝てないじゃん」
 「そうだよ」
 「なかなかいい人なんだ」
 「うん」
 「ふーん…じゃあ、どうして泣くの?」

 そんなの、聞かれたってわかんないよ。

 「ふわふわの幸が作ったウェディングドレス着たいんじゃないの?」
 「…」
 「俺にタキシード着てって言ったじゃん。
 左京さんか支配人に、バージンロード一緒に歩いてもらったらいいんじゃない?」
 「っ、」
 「俺、叶えてあげられるよ?
 ゲームだって、芽李が言うならやめたっていいよ、舞台も一生続ける。
 咲也と一緒に俺の扶養に…って、ダサいな」
 「…」
 「好きなんだよ、芽李のこと」
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