第5章 小彼岸
いづみちゃんが中心になって今日の出来事を教えてくれる。
「で、咲也に引き止められたんだよな。まさかあそこで、戯曲で引き止められるとは思わなかった」
「オレも必死で」
私が仕事をしている間、咲が、皆が頑張って決心してくれたんだ。
「ありがとう」
「別にアンタのためじゃない」
真澄君に少し冷たく返されながら、それでもやっぱりありがとうしかない。
「真澄言い方、まぁでも、少し早まったかなとは思ってるけど…
後、2人だもんな」
ボソッと呟いた綴くん。
左京さんに出された宿題は、最低5人の劇団員と旗揚げ公演の日程。
劇に関わったことがないから、その日程がいかに過密スケジュールであるかなんて想像が難しいけど、皆んな素人だし、やっぱり大変だろう。
話をしながら打ち解けた頃には、みんなのファーストネームを呼ぶようになっていた。
咲を除いて…、(と、言ってもまぁ心の中ではめっちゃ呼ぶけど)
「そうそう、今日は3人。明日は少なくとも2人は見つけないと…」
そう言って頭を抱えるいづみちゃんに、
「私も手伝う」
張り切って言うと、負け時と真澄君も
「アンタには負けない、俺が監督を支えるから」
そう言ってギュンっと睨まれる。
そんなこんなで真澄君と張り合っていた頃、そう言えば話題に入ってこない支配人は何をしていたのかと思えば、キッチンのカウンター越しににんまりと笑い、何かを混ぜているのが目に入った。
「支配人!?」
やられてしまった。
何人くるか分からないから、少し多めに用意した夕飯の下準備。
帰ってきてすぐ、手をつけるべきだった。
「皆さんが話していたので、歓迎も込めて私が作ろうかと!」
あっけに取られてるうちに、食材だったものがほぼゾンビ化している。
どう煮込んだらこの色が出るのか逆に教えてほしい。
目の前に運ばれてきた物体にみんなが顔を引き攣る。
昨日の今日でまたこの惨事を、繰り返してしまうなんて…。
「まって!」
止めるも間に合わず、咲と綴君が口に含む。
言わずもがなだ。
「カレーにします!」
「え!」
いづみちゃんの一声にみんなが驚く。
カレーでもきっとどうにもならないよ…。
だけど、監督という名のMuseがいうから、私も手伝うと立ち上がる。