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3月9日  【A3】

第21章 白妙


 温度のないあの目ばかり思い出すのは、その方が都合がいいからか。

 「…」
 「まぁ、実際、単純に結婚したいんですよ。子供も欲しいですしね。
 事実、私も結婚適齢期」

 って、年上の左京さんに失礼かな。
 …言い淀む方が失礼か。

 「俺を見て言い淀むな、つづけろ」
 「できるなら、カンパニーみんなにお祝いしてもらいたかったですけど、まぁ、別に言うほどのことでもないので」
 「…あとは何を隠している?」
 「っ、」

 例えば、ヴァージンロードは左京さんか支配人、それか、咲と歩きたかったな、とか。

 幸ちゃんの衣装で、莇くんにメイクしてもらいたかったな、とか。

 臣くんの料理をたべながら、みんなの漫才とかエチュードを見たかったな、とか。

 隣で笑うのは、…。

 言い出したらキリが無い。
 案外よく深い人間だったんだとここ最近になって、ようやく気づいた。

 「さぁ、どうですかね?冬が終われば春が来るから、カンパニーも忙しいでしょうし、みんなを呼べないのは心残りですかねぇ」
 「頑固者」
 「左京さんに言われたく無いですよ。
 第一、左京さんのせいでもあるんですよ。こんな景色が見られるって、教えてくれたのは左京さんと支配人なんですから」

 ガシッと頭を掴まれ、というか、多分不器用に撫でられた.

 「髪が崩れる」
 「うるせぇ、寝癖でそもそもぐしゃぐしゃじゃねぇか」
 「酷い」
 「お前ほどじゃない」
 「酷いついでに、左京さんは頑張って下さいね」
 「また無責任に言いやがる」
 「ふふっ、…ま、取り敢えず冬が終わるまで、改めてよろしくお願いいたします」
 「覚悟しとけよ」
 「おー、怖っ」

 左京さんがこれまでにないほど、優しく切なく笑う。
 そんな顔もできるんだ、なんて、また失礼にも思った。

 「なんて顔しやがる」
 「…どんな顔してますか、私」

 つんっと、人差し指で眉間を押される。

 「わっ、」
 「あんまり寄せると、シワになるぞ」
 「左京さんみたいに?」
 「そうだ…って、余計なお世話だ」

 ートントン

 「誰か来たみたいだな」

 左京さんが言ったのと同時に、遠慮がちに開かれたドアから除いたのは、ミルクティーブラウンの髪。

 少しだけ息をのんだ。

 「茅ヶ崎」
 「左京さん、監督が呼んでます」
 「そうか、今行く」
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