第21章 白妙
温度のないあの目ばかり思い出すのは、その方が都合がいいからか。
「…」
「まぁ、実際、単純に結婚したいんですよ。子供も欲しいですしね。
事実、私も結婚適齢期」
って、年上の左京さんに失礼かな。
…言い淀む方が失礼か。
「俺を見て言い淀むな、つづけろ」
「できるなら、カンパニーみんなにお祝いしてもらいたかったですけど、まぁ、別に言うほどのことでもないので」
「…あとは何を隠している?」
「っ、」
例えば、ヴァージンロードは左京さんか支配人、それか、咲と歩きたかったな、とか。
幸ちゃんの衣装で、莇くんにメイクしてもらいたかったな、とか。
臣くんの料理をたべながら、みんなの漫才とかエチュードを見たかったな、とか。
隣で笑うのは、…。
言い出したらキリが無い。
案外よく深い人間だったんだとここ最近になって、ようやく気づいた。
「さぁ、どうですかね?冬が終われば春が来るから、カンパニーも忙しいでしょうし、みんなを呼べないのは心残りですかねぇ」
「頑固者」
「左京さんに言われたく無いですよ。
第一、左京さんのせいでもあるんですよ。こんな景色が見られるって、教えてくれたのは左京さんと支配人なんですから」
ガシッと頭を掴まれ、というか、多分不器用に撫でられた.
「髪が崩れる」
「うるせぇ、寝癖でそもそもぐしゃぐしゃじゃねぇか」
「酷い」
「お前ほどじゃない」
「酷いついでに、左京さんは頑張って下さいね」
「また無責任に言いやがる」
「ふふっ、…ま、取り敢えず冬が終わるまで、改めてよろしくお願いいたします」
「覚悟しとけよ」
「おー、怖っ」
左京さんがこれまでにないほど、優しく切なく笑う。
そんな顔もできるんだ、なんて、また失礼にも思った。
「なんて顔しやがる」
「…どんな顔してますか、私」
つんっと、人差し指で眉間を押される。
「わっ、」
「あんまり寄せると、シワになるぞ」
「左京さんみたいに?」
「そうだ…って、余計なお世話だ」
ートントン
「誰か来たみたいだな」
左京さんが言ったのと同時に、遠慮がちに開かれたドアから除いたのは、ミルクティーブラウンの髪。
少しだけ息をのんだ。
「茅ヶ崎」
「左京さん、監督が呼んでます」
「そうか、今行く」