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3月9日  【A3】

第21章 白妙


 「みんなそんな暇じゃないでしょう」
 「お前が巻き込んだんだろ。諦めかけた俺や松川の夢に、あいつらの夢を」
 「っ、」
 「お前がなんて言い訳しても、俺らにとってはお前はもう、欠けたらいけない、カンパニーの一員なんだよ。
 このカンパニーを去るのが、お前の意思じゃないなら尚更な」
 「ずっと、私の意思ですよ」
 「お前が嘘つく時の癖、俺がわからないとでも思うか?
 お前の意思っつーのは、嘘だ。絶対」

 揺らがない目に動揺してしまう。

 「…、わかりました。
 じゃあ、賭けに乗りますよ。
 条件があります」
 「なんだ」
 「私が賭けに勝ったら、もう引き留めないでください。
 それから、みんなで向かってくるとしても、咲也と万里くんは巻き込まないでください。
 私、2人に話してあるんです、引き止められたくない理由も。
 2人を板挟みにしたくないから」
 「…摂津も?」

 怪訝そうな顔をする左京さんに続ける。

 「その代わりと言ったらなんですけど、最近もう、いろんな人に言い訳で使っちゃったんで、観念するんですけど。
 …春になったら、結婚するんです。
 私のことをちゃんと考えて、支えてくれるとても優しい方と。
 それがこのカンパニーを去る、理由の一つでもあるんです。
 私はその人に応えないといけない、そのために、ここにいられない」
 「茅ヶ崎だって、お前をよく支えてたじゃねぇか」
 「…、」
 「俺が言うにはクセェが、周りから見たらお前らよっぽど」

 左京さんの目は見れなかった。
 あの、射貫くような目で見られてはうっかり、まだここにいたいと言ってしまいそうで、怖かった。

 「…だから、至さんに片想いって言ったじゃないですか。
 掘り下げないでくださいよ。
 言ってて悲しくなるけど、至さんには一方的に想いを寄せてただけなんですから。
 その証拠に、結婚の話をしても引き止めてもくれませんでしたし、第一、フラれてるんですよ、私」
 「はぁ?」
 「あ、でも、心配しないでくださいね」

 色んな顔を見せてくれていたはずなのに、脳裏に浮かぶのは笑顔でも慈しむような目でもない。

 「今回のことは不可抗力とはいえ、極力至さんとは関わらないつもりですし、ギスギスすることはないと思いますから、みんなにそういったことで、ご迷惑かけないようにしますし。
 うまくやりますよ、」
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