第21章 白妙
「左京さんには関係ない…ですよね」
大の大人で、ヤクザで、そんな左京さんが私の言葉に左右されるわけがないってわかってるのに、苦しい。
「お前は、」
「左京さんが大事なのは、このカンパニーといづみちゃんですよね」
「あいつのことは置いておいて、お前だってカンパニーの一部だ」
「っ、…左京さんにそれ、言ってもらえるのは嬉しいですね。
でも、違いますよ」
「あ?」
少しだけ眉を顰める左京さん。
「ここは、男性だけで構成する劇団です。いづみちゃんは監督だし、元はお父様の劇団だから別として、…」
「何言ってやがる。お前が寮母って言ったんだろうが」
「それって、必要ですか?」
「あ?」
「私、みんなには迷惑かけてばかりで、家事だってもう臣君がいるし、みんなだってそれぞれできるし、…
薄々気づいてたんですけどね、何もできてないって。
何も返せてないって。
何をしたらいいか、思いつかないんですよ」
「…」
「だから、せいぜい、冬組のメンバー探しまでかなって。
それに、情け無い話なんですけど、やっぱり私の1番は咲也なんですよ。
みんなのこと公平に見られない」
疑うような視線が嫌だな。
気持ちも全て、見透かされてるような気がする。
「万里くんも、ゴット座も…至さんも関係ないです。私自身の問題なんです」
「…そうか、わかった。言葉を変える。
俺は、お前に借りがある。
言いたくないが、俺の夢が少しずつ叶いつつあるのはお前のおかげもあると思っている。
松川だけじゃきっと、劇場は残らなかった。
お前に言われなかったら、俺は多分、後ろめたさでここに入ろうと考えもしなかった」
左京さんの真剣な目が痛い。
…だから余計、諦めなきゃいけないってわかってるのに。
「お前のこと、もう妹とか、身内のように思ってるんだよ」
「…じゃあ、左京さんがいづみちゃんとくっ付いたら実質私といづみちゃんも姉妹になれるってことですね」
「…」
「お兄ちゃんに頑張ってもらわないと」
「おい」
「へへっ、」
「はぁ…。俺が聞きたいのは、誤魔化しじゃねぇぞ」
「じゃあ、至さんへの片想いってことにしといてくださいよ」
左京さんの双眼を捉える。
「私のただの片想いがただひたすら、痛くて、辛くて、苦しいから、もう辞めたくなったんです」