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3月9日  【A3】

第21章 白妙


 「ここどこやねーん」

 辛うじて街頭はあるが、夜だ。
 ムッチャクチャ暗い。

 お腹すいた。

 っていうか、臣君がいるとはいえ、本当に私寮母としてどうなの?
 ご飯は作ってない、挙句迷子。

 まぁ、私がいないところで困らないから、…なんてマイナスなことを考え始めるのは、疲労のせいと思いたい。

 今日はカバンもないし、財布も無いし、携帯ないし、あるのは寮の鍵だけだ。

 …詰んだな。

 まぁ、でも唯一の救いは、夏じゃないことかな。
 汗もかかないし、逆に手がかちこちに凍りそうな寒さではあるけど。
 髪も化粧も綺麗だし、眠るようにどうにかなっても、綺麗な状態で見つけてもらえるだろう。

 と、ちょうど良さげなベンチを見つけて寝転がる。

 東さんのコート、ちょうどいいな。
 布団にさせてもらおう。
 袖を外し、首までかぶれば丁度いい感じになった。
 さっきまでの震えも無事に止まったし、なんとなく眠いし…。

 眠るように目を閉じた時、

 「何してんの」

 もう少しで忘れそうだった声を聞く。

 なんか、暫くぶりに聞いた方がする。
 あと、なんか、デジャブだ。
 前もあった気がするのに、うまく思い出せないや。

 服の擦れる音がする。

 「目、開けろって」
 「姉ちゃん!」

 あれ?
 咲の声までする。

 「咲也、ちょっとこれ持ってて」

 焦ったような声と、かけていた服が取られたかと思うと、体が持ち上がるような気がする。

 「至さん」

 咲が呼ぶ声を最後に、そっと意識が途絶えた。
 多分、ものすごく眠かったんだと思う。

 揺ら揺らと揺られ、暖かい空間にひどく安心した事だけは、覚えている。








ーーーーー
ーー


 意識が浮上したのは、一体あれからどのくらい経った後だろう。
 ゆっくり目をあけると、見慣れた部屋で驚く。

 せっかく巻いてもらった髪は、ぐちゃぐちゃで、魔法が解けたのを感じる。
 なんてセンチメンタルすぎか?

 トントンとノックが聞こえた後、返事をする前にガチャっとドアが開いた。

 手にはお盆を持ち、私服姿の左京さんと目が合う。

 あれ、今日お仕事お休みなのかな??

 がじゃんと、何かが落ち、割れる音。

 ずんずんと私に向かって歩いてきた後、グッと襟首を掴まれる。
 待って待って、私女の子なんですけど。
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