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3月9日  【A3】

第21章 白妙


 次々と塗られていく化粧水やら乳液やらクリームやらなにやら。
 普段でも私、こんなに使わないんだけど。

 丁寧に優しい手つきなのに、指示は割と冷たい。
 上見ろ、下見ろ、もう少し斜めに。
 現場監督みたいな、莇くんの指示にしたがってもうしばらく経つ。

 「あのー」
 「まだ喋んな。いいところだから」

 じわっと近い顔。
 幼さは残るものの、将来絶対イケメンくんになるだろう。
 綺麗な顔してる。
 お母様もさぞ美人さんなんだろうな。

 「後チーク乗せたら終わりだから」
 「あ、はい」

 そっと筆にのせた色を私の頬にうつす。

 「ん、」
 「なんかよくわかんないけど、やっぱ凄いな莇」
 「芽李さん、元がいいからな。
 一回化粧させてもらいたかったんだよ。ほら、鏡」
 「…っ」

 驚くほど見違えた顔。
 化粧をおえて、これが私?なんてテレビだけのセリフだと思ってたのに。

 「あれ?莇くん何年生でしたっけ?」
 「中学生…なに?」
 「いや、ことと次第によってはうちの劇団にオファーしたいレベルで、凄すぎてちょっと引いてる」
 「引くなよ、これくらいで」
 「莇くんすごいね、なんか知らないけど私めっちゃ美人に写ってるんだけど、これ魔法の鏡か何か?」
 「ははっ、芽李さんって面白い人なんだな」
 「変なこと言うなよ。全く、喋んなきゃいいのに」
 「弟にそれ言われたら割と傷つくんだけど」
 「そんな設定もあったな。ま、ついでに髪もいじっていい?」
 「いや、いいけど、っていうかありがたいけど」

 やはり手持ちの、アイロンとくしを取り出したかと思うと、それをコンセントに繋いだ。

 そして私の髪に櫛を通し、それを終えると器用に巻いていく。

 今の中高生すごいな?って、前も思った気がするのだが。

 「よし、今度こそ完成」

 鏡に映る私は、ここまできたらもう知らない誰かだ。
 本当にこれ鏡か?
 画面か何かじゃないのか?

 「さ、芽李さん、立って」
 「志太、俺今日泊まっていい?」
 「そのつもりだと思ってたんだけど」
 「さすが。芽李さんのこと大通りまで送って来る」
 「了解」
 「え?」
 「ほら、いくよ。忘れ物すんなよ」
 「えっ、ま、あ、あの今日はお邪魔しました!また今度お礼するね、志太くん」
 
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