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3月9日  【A3】

第21章 白妙


 「どんな人なの?」
 「あ、えっと……。
 スーパーマンみたいな人です。…やさしくて、頭が良くて、几帳面っぽくて、至さんとは正反対で、…でも、どこか似てるんです」
 「…ふふ、そっか」
 「はい」

 安心したように笑った東さんに釣られて笑う。

 「そう思ったら、…失礼ですよね。
 泣くほどの、気持ち…早く忘れないと。
 冬組見届けながら、ちゃんと昇華していかないとですね」
 「微力ながら、力になるよ」
 「ありがとうございます」
 「じゃあ、そろそろもどろうか。みんなのところに」
 「待ってください、東さん、私のせいで服濡れちゃってますし」
 「大丈夫、このくらい」
 「あ、じゃあ」

 着ていた少し大きめのパーカーをぬぎ、押し付ける。

 「ん?」
 「せめてものお詫びというか、これ、大きいサイズなので東さんも着れると思います。
 みんなに驚かれちゃうかもしれないし、誤魔化すためにもきてください。
 私、こんな顔じゃ戻れないし、一度寮に戻ります」
 「………わかったよ、ありがたく貸してもらうね。
 でも芽李、今度は君が外に出るには薄着で風邪をひいてしまうよ。だから、少し待ってて」

 そう前置きをした後、どこかに行ってしまった雪白さんは5分もしないで戻ってくると、ふわっと私の肩にコートをかけた。

 「お礼に僕のコートを貸してあげる。ついでにみんなには、うまく言っててあげるね?」

 エスコートするように、そっと私を連れ出した東さんに見送られ劇場を出たのはいいが、冷静になって思うとこの上着があるなら、私が貸す必要なかったのでは?なんて考えが浮かぶ。

 まぁ、いっか。

 もう外に出てしまったし。

 ポケットには鍵だけ、私としたことが荷物、というか携帯まで劇場に置いてきてしまった。
 でも寒いし、今更戻るのめんどくさいし…。

 よっぽどのことがあれば、寮に電話来るだろうし。

 うん、大丈夫、大丈夫。

 とりあえずこの、泣き腫らした顔をどうにかしないと。
 隠すように俯いて歩く。

 寮までの道が長く感じられるのは、寒さのせいだろうか。

 「芽李さん」

 トンッと肩が叩かれた。

 「莇くん」
 「ちわっ。って、何してんだよ」
 「いや、ちょっと…顔を隠してる」
 「なんで」
 「不手際がありまして」

 覗き込まれ、目が合う。
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