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3月9日  【A3】

第21章 白妙


 「続けて?」

 無茶振りにもとれる、それに、言葉が詰まる。
 言葉が出なくなったと思えば、意図せず視界が歪んでく。

 「っ、」

 何やってるんだ、私。

 ボロボロと落ちる涙に、唇を噛み締めるのが精一杯だ。

 「おやおや。跡になっちゃうから噛むのはよくないよ」

 冷たい指先が、私の涙を拭う。

 「芽李は、泣き虫だね」
 「…っ、」

 涙ってどうやって止めるんだって、思えば思うほど出てくる。

 「意地悪してごめんね」

 東さんは、全て見透かしたかのようにクスッと笑う。

 「ただちょっと、気になっただけだったんだ。
 あの後、どうなったかなって…」
 「…」
 「少し残念…でも、少しだけ君のことわかった気がするよ」

 手が離れたと思ったら、そっと頭を引き寄せられる。

 「ボクでは不足だと思うけど、胸を貸してあげる」

 ふんわりと香るのは、白檀のような気品のある香り。
 お香かな…?

 「泣いていいよ、誰も見ていないし」

 心地いいリズムで、そっと私を撫でる。

 この人は魔法使いか、何かなんだろうか。
 優しい手つきに気付かされる。
 思いの外メンタルが弱ってたのか、至さんのことだけじゃなくて、生まれてから今までのことなんでか全部思い出して、そしたらもう余計泣けてきた。

 このまま泣き続けていたら、あっという間に水分が抜けて、干物にでもなっちゃうんじゃないだろうか。

 高すぎない体温がちょうどいい。
 華奢だと思っていた東さんは、それでもやっぱり男の人だった。

 「わたし、やっぱり、ずるいですね」

 涙がようやく収まってきたころ、もう大丈夫だと離れる。

 「っ、…そうかもね」
 「でも、なんか、…スッキリしました。
 東さんの前で泣いてばかりな気がします」
 「僕もそう思うよ、でも、悪い気はしないかな」
 「どういう意味ですか?」
 「そのままの意味」
 「はぁ、もう。東さん入ったばっかりだったのに、泣きついて、情けないですね、私」
 「ところで、本当にやめちゃうの?」
 「…はい。春に、結婚するんです」
 「…おめでとうで、いいのかな?」
 「はい」

 少しだけ歪めた表情に、慌てて言う。

 「だから、その、寿退社?ですよ!
 至さんに、片想いしてられないんです。幸せになるんです。
 だから、心配には及びませんよ」
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