第21章 白妙
「続けて?」
無茶振りにもとれる、それに、言葉が詰まる。
言葉が出なくなったと思えば、意図せず視界が歪んでく。
「っ、」
何やってるんだ、私。
ボロボロと落ちる涙に、唇を噛み締めるのが精一杯だ。
「おやおや。跡になっちゃうから噛むのはよくないよ」
冷たい指先が、私の涙を拭う。
「芽李は、泣き虫だね」
「…っ、」
涙ってどうやって止めるんだって、思えば思うほど出てくる。
「意地悪してごめんね」
東さんは、全て見透かしたかのようにクスッと笑う。
「ただちょっと、気になっただけだったんだ。
あの後、どうなったかなって…」
「…」
「少し残念…でも、少しだけ君のことわかった気がするよ」
手が離れたと思ったら、そっと頭を引き寄せられる。
「ボクでは不足だと思うけど、胸を貸してあげる」
ふんわりと香るのは、白檀のような気品のある香り。
お香かな…?
「泣いていいよ、誰も見ていないし」
心地いいリズムで、そっと私を撫でる。
この人は魔法使いか、何かなんだろうか。
優しい手つきに気付かされる。
思いの外メンタルが弱ってたのか、至さんのことだけじゃなくて、生まれてから今までのことなんでか全部思い出して、そしたらもう余計泣けてきた。
このまま泣き続けていたら、あっという間に水分が抜けて、干物にでもなっちゃうんじゃないだろうか。
高すぎない体温がちょうどいい。
華奢だと思っていた東さんは、それでもやっぱり男の人だった。
「わたし、やっぱり、ずるいですね」
涙がようやく収まってきたころ、もう大丈夫だと離れる。
「っ、…そうかもね」
「でも、なんか、…スッキリしました。
東さんの前で泣いてばかりな気がします」
「僕もそう思うよ、でも、悪い気はしないかな」
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味」
「はぁ、もう。東さん入ったばっかりだったのに、泣きついて、情けないですね、私」
「ところで、本当にやめちゃうの?」
「…はい。春に、結婚するんです」
「…おめでとうで、いいのかな?」
「はい」
少しだけ歪めた表情に、慌てて言う。
「だから、その、寿退社?ですよ!
至さんに、片想いしてられないんです。幸せになるんです。
だから、心配には及びませんよ」