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3月9日  【A3】

第21章 白妙


 「間違いだから、嫌なんです」

 ニコニコしていた東さんの顔から、笑顔が消える。
 そうさせたのは私だけど。

 「酔っていたから、私どこまで話しちゃったか申し訳ないですけど、あまり覚えていなくて…
 でも、これだけは言えるんです。
 迎えに来てくれたとしても、それは至さんが優しいからってだけです」
 「…」
 「私はこう言う経験がすくないから、その優しさに甘えてたんです。
 向こうもそう言う感情を、少なからず向けてくれてたんじゃないかなって、勘違いしただけです。
 そもそも、おんなじカンパニーにいるのにそう言う感情を持った私がおかしいんですよ」
 「芽李」

 優しく向けてくれる視線がどこか少し気まずくて、視線を落とす。

 「…まぁ、でも。それも、もうすぐ終わるんです」

 いつまでも引き摺るなんて馬鹿みたいだと、分かっているのに、どうしてもあの温度のない目がずっと離れない。
 表情が、言葉が、…。
 悪者にしたいわけでも、悲劇のヒロインを演じたいわけでもないのに、どうしたって言うんだ。

 口角を上げるついでに、落とした視線もあげる。

 「私、冬組を見届けたら、カンパニーをぬけるんです」
 「っ、…そう。」
 「ここに来て、2年目?3年目?になるのかな…まぁ、みんなより少し長くって言っても、支配人とかには負けちゃうんですけど、それなりに長く居させてもらいました」

 東さんが話を聞いてくれるのをいいことに、私、本当にずるいな…。
 そう思うのに、さっぱり口を閉じれない。

 「人生のうちでけっこう、ここに来てからが1番充実してて、…だからちょっと寂しいのもあるんですけどね。
 演技なんてできないし、ここは男性だけの劇団だから監督でもなんでもない、寮母なんて名ばかりだし、みんなに何もしてあげられない。
 1番のファンってだけ。…フェアじゃないよなぁって、最近思うんですよ」

 言い訳というか、ただの甘えたな弱気。

 「料理は臣君ができるし、お裁縫だって幸くんのが得意だし、絵も描けないし、本も描けない、楽器もできないし、役者じゃない。
 みんなが許してくれるから甘えてここにいて、勝手に感情乱して、何してるんだよって話しですよ。まぁ、東さんに話すことじゃないですね」

 そっと伸びてきた指が、そっと頬に触れるのを感じる。
 冷たい指先にビクッとする。
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