第21章 白妙
「間違いだから、嫌なんです」
ニコニコしていた東さんの顔から、笑顔が消える。
そうさせたのは私だけど。
「酔っていたから、私どこまで話しちゃったか申し訳ないですけど、あまり覚えていなくて…
でも、これだけは言えるんです。
迎えに来てくれたとしても、それは至さんが優しいからってだけです」
「…」
「私はこう言う経験がすくないから、その優しさに甘えてたんです。
向こうもそう言う感情を、少なからず向けてくれてたんじゃないかなって、勘違いしただけです。
そもそも、おんなじカンパニーにいるのにそう言う感情を持った私がおかしいんですよ」
「芽李」
優しく向けてくれる視線がどこか少し気まずくて、視線を落とす。
「…まぁ、でも。それも、もうすぐ終わるんです」
いつまでも引き摺るなんて馬鹿みたいだと、分かっているのに、どうしてもあの温度のない目がずっと離れない。
表情が、言葉が、…。
悪者にしたいわけでも、悲劇のヒロインを演じたいわけでもないのに、どうしたって言うんだ。
口角を上げるついでに、落とした視線もあげる。
「私、冬組を見届けたら、カンパニーをぬけるんです」
「っ、…そう。」
「ここに来て、2年目?3年目?になるのかな…まぁ、みんなより少し長くって言っても、支配人とかには負けちゃうんですけど、それなりに長く居させてもらいました」
東さんが話を聞いてくれるのをいいことに、私、本当にずるいな…。
そう思うのに、さっぱり口を閉じれない。
「人生のうちでけっこう、ここに来てからが1番充実してて、…だからちょっと寂しいのもあるんですけどね。
演技なんてできないし、ここは男性だけの劇団だから監督でもなんでもない、寮母なんて名ばかりだし、みんなに何もしてあげられない。
1番のファンってだけ。…フェアじゃないよなぁって、最近思うんですよ」
言い訳というか、ただの甘えたな弱気。
「料理は臣君ができるし、お裁縫だって幸くんのが得意だし、絵も描けないし、本も描けない、楽器もできないし、役者じゃない。
みんなが許してくれるから甘えてここにいて、勝手に感情乱して、何してるんだよって話しですよ。まぁ、東さんに話すことじゃないですね」
そっと伸びてきた指が、そっと頬に触れるのを感じる。
冷たい指先にビクッとする。