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3月9日  【A3】

第21章 白妙


 いいから舞台見てなよ、と、肩を押す。

 なんでもないと、静かに呟く。

 東さんと代わって、今度は紬さんの番。

 シーンとした劇場で、板の上で、凛と立つ姿は、寒さに耐え咲く一輪の水仙のように見えた。

 「…」

 いつまで経っても、話出さない彼。

 「おい、どうしたんだ?」
 「課題難しんじゃね?」

 心配するかのように十座くんと万里くんが言ったのを、左京さんがそっと止めた。

 「…黙ってろ」

 そんな時、そっと漏れた吐息。

 「……ふぅ」

 それは、何かを心配し、そこに少しの寂しさを混ぜたようなため息。
 スマホを確認して、周りを見回して…。

 凄いな、月岡さん。
 たったため息ひとつで、その視線で、言葉もなくみんなを引き込む。

 学生演劇とか、素人扱いでいいとか、そんなの嘘だ。

 「…」

 月岡さんが作り上げた世界。
 ここが板の上でなければ、きっと日常に馴染んで見えるんだと思う。

 携帯に向ける視線の奥。
 待ち合わせしているんだと、物言わず伝えてくる。

 「…え?」

 きっとメッセージが来たんだ。
 その顔に動揺が浮かぶ。
 急ぐように立ち去る背中、みんなの視線を更にグッと惹きつける。

 「…‥以上です。」

 一旦はけて、戻ってきてお辞儀をした月岡さんに、太一くんがキラキラとした目を向けている。

 「ーーすごいっス!」
 「最初は何をしてるのかと思ったけど、待ち合わせしてたのか」
 「全然セリフなしであれだけ表現できんだな」
 「やるな……」

 いづみちゃんもどこかワクワクしている。

 「…‥何が未経験者扱いだ」

 左京さんの言葉は少しだけ、嫉妬が混じったような皮肉にも聞こえた。

 「結果はいつ知らせてもらえるのかな」

 月岡さんが舞台から降りたのをみて、次に私たちに視線を向けた雪白さんは、どこか楽しそうに言う。

 「あ、お二人とも合格です!」
 「え?」
 「おや。ずいぶんあっさり決まるんだね」

 呆気に取られている2人に、当然だろっと受け入れるこちらに2人とも表情が柔らかくなったような気がする。

 「入団おめっす」
 「っす」
 「よろしくっス!」
 「よろしくお願いします」
 「これから、MANKAIカンパニーの一員としてがんばりましょう!」
 「……はい」
 「こちらこそよろしく」
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