第20章 白雪
「姉ちゃんがこの部屋にいるの、いけない事ですかね?」
「…」
無言のままのシトロンさんに、オレは自分の狡さにちょっとだけ悲しくなった。
言いながら、本当は言葉にしたくなかったと思った。
だって、言ってしまえば妙にしっくり来てしまったから。
「オレ、いけない事じゃないけど、姉の様子がどこかおかしいのはなんとなく、わかってるんです」
「うん」
「でも、やっとオレの番が来たって思ってたんです。
みんなとのやりとりを見ながら、オレが弟なのにって、強く思う時があるんです」
ぽつりぽつりと出てくる言葉はあまりに自然で、意図してないのにオレはこんな事思ってたんだって、絡まった糸が解けていくような感覚。
シトロンさんは聞き上手だ。
「もう少し、弟でいたいんです」
「…わかったヨ」
気まずくて落としていた視線を上げた時、優しさの中に切なさも混ざるような、少しくすぐったくなるくらいの微笑みを浮かべたシトロンさんを見たら、情けなくってポロッと涙が出る。
「っ、」
ふんわりと香ったシトラスのような異国の香りに、シトロンさんが動いたのがわかった。
暖かい手のひらを背中で感じる。
「サクヤはいい子ネ」
「そんなこと、」
ない。
独り占めしようとしている時点で、どうしようもない。
「ずっと、漫才してたネ」
「まんざい?」
「がまん、だったヨ」
「ふっ、」
真面目なトーンで言間違えるから、自分のままならない感情とのギャップで余計おかしくて思わず笑ってしまった。
「サクヤの笑い方は、花が咲く時に似ているヨ。
ワタシ、サクヤにもめいにも、笑っていて欲しいネ」
「…オレも、です。姉ちゃんには笑ってて欲しい、シトロンさんにも」
「ありがとう、サクヤ。
サクヤ心配しなくても、メイとサクヤが姉弟なことも、みんなが家族ってことも変わらないヨ。
だけど今はもう二人だけじゃないってこと、覚えててほしい。
…それだけ、言いたかったヨ」
「はい」
どこまでも優しいシトロンさんに、気持ちが少しだけ軽くなった。
「咲也ー。シトロンさんー。ご飯だって」
ノックの後扉の向こうで聞こえた綴君の声に、涙を拭いた。
「今行くヨー!」
オレの代わりに答えたシトロンさんが、それを見てまた優しく笑った。