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3月9日  【A3】

第20章 白雪


 カレーパンを買いにパン屋さんに入った放課後、あの日から数日が経った。

 姉ちゃんは今日もシトロンさんと日本語講座をしていて、オレもそれに混ざったり、その隣で宿題をしたりしている。

 穏やかに流れる時間にアラームが鳴って、姉ちゃんが携帯を操作しそれを止めた。

 「もうこんな時間か。そろそろ夕飯の準備あるから、行かないと」
 「もうそんな時間ネ?今日もありがとうダヨ、」
 「ふふ、どういたしまして」
 「夕飯の用意、オレも手伝おうか?」

 開いていた教科書を閉じようとした時、立ち上がった姉ちゃんはそれを静止してニコって笑った。

 「大丈夫、ありがとう」

 ぽんぽんと、通り過ぎ状オレの頭を撫でる。

 そんなやり取りを微笑んで見ていたシトロンさん。
 オレは少し恥ずかしくなって、やり場のない視線を教科書へと向ける。

 「サクヤ」
 「…はい」
 「ワタシ、二人が仲良くしてるの嬉しいヨ」

 急に何を言い出すんだろうと、握っていたペンを置いた。

 「だけど、みんなと仲良くしてる二人を見てるのも好きダヨ」

 どきりとした。

 「…めい、最近談話室に来ないって、木琴バラバラの話よ」
 「え?木琴バラバラ…?」
 「そうだヨ。まぁ、ワタシの甘い違いかもしれないネ」
 「甘い、違い?」

 シトロンさんの言い回しに、姉による日本語講座は全く意味をなしてないんじゃないかと思う反面、シトロンさんの言いたい事が何となくわかってしまった。

 「サクヤはどう思う?」

 オレは、…。

 オレも、…。

 「どうって…」

 …この寮に来てから、オレは少しだけ欲張りになった。
 お芝居に関する事だけじゃない、姉ちゃんに対してもだ。

 オレたち姉弟は、どこか共依存が強い節があることは、自覚していた。
 幼少期の環境を思えば、多少は仕方のない事のような気もする。

 …それにオレは、この状況が少しだけ嬉しかったんだ。

 姉ちゃんは、この寮のお世話がかりみたいなもので、みんなそれぞれ抱えているものがあって、どんな引力なのか分からないけどそれぞれが姉ちゃんと関係があって…。

 わかっているから、素直に甘えられない時もあって、だから、今やっとオレの番がきたんだって、本当はこっそりと思ってた。

 「姉ちゃんが、この部屋にいるのシトロンさんは嫌ですか?」
 
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