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3月9日  【A3】

第20章 白雪


 「咲也、おかえりダヨ」
 「咲、おかえり」
 「シトロンさん、姉ちゃん、ただいま。珍しいね、この時間にオレの部屋に姉ちゃんがいるの」

 着替えながら、何となく言った。

 「シトロン君に日本語講座頼まれちゃって」
 「メイに、いろいろ教えてもらってたネ。ツヅルとの漫才で使うヨ」
 「綴君に教えてもらった方がいいと思ったんだけど、皆木大先生次の執筆がもうすぐだろうから、休んでほしいって言う思いもあってね?」
 「ツヅルへの熱量がすごくて、ワタシ若干ひいたヨ」
 「え」
 「嘘ダヨ」

 2人の会話のテンポにクスッとしてしまったのは、着替えのために背中を向けていたから、きっとバレてはいないと思う。

 まぁ、でも何はともあれ、2人揃ってるなら都合がいい。

 「じゃあ、日本語講座の休憩におやつにしませんか?」

 例の紙袋を掲げて、ニコッと笑えば姉の顔はデレデレと…いや、まぁそれは置いといて、ついでに紙袋もローテーブルの上に置いた。

 「お二人と食べたかったので、買って来ちゃいました」
 「あ、もしかしてこれって、新しくできたパン屋さん??」
 「それなら、商店街のマダムが話してたヨ!とっても美味しいって」
 「真澄くんが帰り道に寄りたいって。オレと万里くんも便乗したんです」
 「ありがとうダヨ!ワタシ、飲み物入れてくるネ」
 「あ!私がやるよ」
 「姉弟見ず知らず、お話ししてて」

 ウインクを一つしたあとるんるーんっと、部屋を出て行ったシトロンさん。

 「行っちゃった」

 シトロンさんのお言葉に甘えて、姉ちゃんの手を引く。

 「姉弟見ず知らず、お話ししよ!姉ちゃん」
 「咲、多分水入らずだよ」
 「ふふっ」

 ずっと伸びて来た手に抵抗するわけでもなく、されるがままにする。

 「咲、髪伸びて来たね」
 「姉ちゃん、切ってくれる?」
 「前髪ぱっつん一択になるけどいい?」
 「それはちょっと…とりあえず座ろ?姉ちゃん、どれが食べたい?
 おかず系のと甘いのと、どっちが好き?オレのおすすめは、コレ」
 「姉ちゃん選んでいいの?」
 「うんっ、だって姉ちゃんと食べたくて買って来たんだもん」

 なんて、オレも結構策士だったりして。
 だってほら、たまらずぎゅっとしてくれる姉ちゃんの腕の暖かさを知ったらさ、次もまた欲しくなるに決まってる。
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