第20章 白雪
「咲也、おかえりダヨ」
「咲、おかえり」
「シトロンさん、姉ちゃん、ただいま。珍しいね、この時間にオレの部屋に姉ちゃんがいるの」
着替えながら、何となく言った。
「シトロン君に日本語講座頼まれちゃって」
「メイに、いろいろ教えてもらってたネ。ツヅルとの漫才で使うヨ」
「綴君に教えてもらった方がいいと思ったんだけど、皆木大先生次の執筆がもうすぐだろうから、休んでほしいって言う思いもあってね?」
「ツヅルへの熱量がすごくて、ワタシ若干ひいたヨ」
「え」
「嘘ダヨ」
2人の会話のテンポにクスッとしてしまったのは、着替えのために背中を向けていたから、きっとバレてはいないと思う。
まぁ、でも何はともあれ、2人揃ってるなら都合がいい。
「じゃあ、日本語講座の休憩におやつにしませんか?」
例の紙袋を掲げて、ニコッと笑えば姉の顔はデレデレと…いや、まぁそれは置いといて、ついでに紙袋もローテーブルの上に置いた。
「お二人と食べたかったので、買って来ちゃいました」
「あ、もしかしてこれって、新しくできたパン屋さん??」
「それなら、商店街のマダムが話してたヨ!とっても美味しいって」
「真澄くんが帰り道に寄りたいって。オレと万里くんも便乗したんです」
「ありがとうダヨ!ワタシ、飲み物入れてくるネ」
「あ!私がやるよ」
「姉弟見ず知らず、お話ししてて」
ウインクを一つしたあとるんるーんっと、部屋を出て行ったシトロンさん。
「行っちゃった」
シトロンさんのお言葉に甘えて、姉ちゃんの手を引く。
「姉弟見ず知らず、お話ししよ!姉ちゃん」
「咲、多分水入らずだよ」
「ふふっ」
ずっと伸びて来た手に抵抗するわけでもなく、されるがままにする。
「咲、髪伸びて来たね」
「姉ちゃん、切ってくれる?」
「前髪ぱっつん一択になるけどいい?」
「それはちょっと…とりあえず座ろ?姉ちゃん、どれが食べたい?
おかず系のと甘いのと、どっちが好き?オレのおすすめは、コレ」
「姉ちゃん選んでいいの?」
「うんっ、だって姉ちゃんと食べたくて買って来たんだもん」
なんて、オレも結構策士だったりして。
だってほら、たまらずぎゅっとしてくれる姉ちゃんの腕の暖かさを知ったらさ、次もまた欲しくなるに決まってる。