第20章 白雪
咲也 side
秋から冬へと季節が移ろいゆくのを感じながら、歩く通学路。
万里くんと真澄くんが両隣を歩くのにも、もう何の違和感もない。
「寒くなって来たな」
「そうだね」
寒さが息を白く染めていく。
指先が冷たくてそっと息を吹きかけた時、聞き役に徹していた真澄くんがオレの袖の裾を握った。
「咲也、カレーパン」
唐突に言われたその一言に、首を傾げる。
「え?」
いきなりどうしたんだ?と思えば、パッとその手を離しズンズンと横道へと行ってしまった真澄くんに、万里くんと2人顔を見合わせてその後を追う。
「真澄?」
「真澄くん?」
小さなパン屋さんの前で立ち止まった真澄くん。
そう言えば、数日前真澄くんを起こす時姉ちゃんが言っていたような気もする。
新しくできたパン屋さん。
「腹でも減ったのか?」
「監督に買っていく。お前らも付き合え」
「なる、そーいうこと」
「じゃあ。オレも芽李さんと、シトロンさんに買っていこうかな」
「そんじゃあ、俺も。夜食用で至さんに」
カランコロンと、木製のドアを開けば優しいパンの香りがした。
ーーーー
ーー
ー
ー…数分後。
オレたちの手にはそれぞれロゴの入った紙袋がある。
目的のものを買えた真澄くんはどこか嬉しそうで、オレも嬉しくなった。
「テラス席もあったな、さっきのとこ」
「うん、ドリンクも頼めるみたいだし、中はおしゃれだったね」
「いつか、監督とデートで使う」
「真澄は相変わらずだな」
「でも、そのくらい雰囲気もよかったよね」
いつか、姉ちゃんも誘ってみんなでこようなんて、オレも思ってたりして。
そんな会話でほっこりしたせいか、寒さを少しだけ忘れて寮にたどり着く。
門を潜って、冬も間近だからか茶色が多い庭を横目に、玄関のドアを開けた。
「ただいまー」
大きな声で言えば、支配人や監督のおかえりが聞こえる。
「あ、真澄くん!手洗いうがいがさき!…って、行っちゃった」
「咲也も苦労するな。ま、監督に言われて、真澄も洗いにいくだろ」
「そうだね」
万里くんと2人で手を洗いに行ったあと、部屋の前で別れる。
シトロンさんがいるかもしれないからと、ノックをする。部屋から聞こえた2人分の声を聞いて、オレはドアを開けた。