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3月9日  【A3】

第20章 白雪


 「仲直りできてよかったな。もうそろそろ、寮出なきゃいけねぇけど、至さんも早く支度しろよな」
 「うん。あ、万里」
 「ん?」
 「…その、ごめんな。最近、感じ悪くて」
 「芽李さんと仲直りしてくれたんなら、チャラでいーですよ。その代わり、今日もゲーム付き合ってくださいね?」
 「上等」

 至さんにしては珍しく、…というか、芽李さんの物だからか、慈しむように優しい手つきで大事に畳んだあと、そっと布団の上に置いた掛け物。

 そんなふうにできるなら、最初っからしてやればよかったんじゃねぇの、なんて当事者じゃないから思えんだろうな。
 と、どこか他人事のように思った俺。

 その間に至さんが朝食を食べに行く支度を終えて、部屋を出た。そのまま、俺の隣を歩く。

 「万里ぃー」
 「なんすか」
 「どうしよ、俺、ニヤケすぎてキメ顔できない」

 ふにふにと自分の顔に手を当てながら、ゆるゆるな表情の至さんはなかなかに珍しい。

 「キメ顔する必要あります?」
 「芽李にかっこいいって、思ってほしいじゃん?」
 「そのままでもいいんじゃねぇ?散々見られてるんだし」
 「全くお前は、オトコゴコロわかってない」
 「なんだよ、オトコゴコロって。つーかさ、至さん。
 アンタこそ、弁えろよ。集団生活なんだから」
 「わかってるって」

 その言葉通り談話室に入った瞬間、OFFモードから切り替えた至さん。
 俺は団員からのおはように適当に返しながら、真澄を起こす咲也を見て、俺も早く朝食食って支度しねぇと、と同時に芽李さんの顔が浮かんだ。
 咲也も優しい奴だからな、芽李さんの大事な弟、遅刻させるわけにはいかねぇもんな。

 …あれ?つーか、芽李さん人に用押し付けといて、どこいったんだ?

 「万里?調子悪いのか?」
 「…いや。
 何でもねぇんだけど、なんかな」

 いつも通りの臣。
 何となく、違和感。
 何に対してだ?

 「薬飲むか?」
 「いらねぇ。ただちょっと、芽李さんは?」
 「そうだな、真澄達も起こしてくれたみたいだし。部屋か、脱衣所じゃないか?洗濯機回してたみたいだしな」
 「ふーん」

 その時は至さんの浮かれ具合に俺も少し充てられて、ほんの少し忘れていた。
 そんなに甘い事態じゃなかったってことを。
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