第20章 白雪
「仲直りできてよかったな。もうそろそろ、寮出なきゃいけねぇけど、至さんも早く支度しろよな」
「うん。あ、万里」
「ん?」
「…その、ごめんな。最近、感じ悪くて」
「芽李さんと仲直りしてくれたんなら、チャラでいーですよ。その代わり、今日もゲーム付き合ってくださいね?」
「上等」
至さんにしては珍しく、…というか、芽李さんの物だからか、慈しむように優しい手つきで大事に畳んだあと、そっと布団の上に置いた掛け物。
そんなふうにできるなら、最初っからしてやればよかったんじゃねぇの、なんて当事者じゃないから思えんだろうな。
と、どこか他人事のように思った俺。
その間に至さんが朝食を食べに行く支度を終えて、部屋を出た。そのまま、俺の隣を歩く。
「万里ぃー」
「なんすか」
「どうしよ、俺、ニヤケすぎてキメ顔できない」
ふにふにと自分の顔に手を当てながら、ゆるゆるな表情の至さんはなかなかに珍しい。
「キメ顔する必要あります?」
「芽李にかっこいいって、思ってほしいじゃん?」
「そのままでもいいんじゃねぇ?散々見られてるんだし」
「全くお前は、オトコゴコロわかってない」
「なんだよ、オトコゴコロって。つーかさ、至さん。
アンタこそ、弁えろよ。集団生活なんだから」
「わかってるって」
その言葉通り談話室に入った瞬間、OFFモードから切り替えた至さん。
俺は団員からのおはように適当に返しながら、真澄を起こす咲也を見て、俺も早く朝食食って支度しねぇと、と同時に芽李さんの顔が浮かんだ。
咲也も優しい奴だからな、芽李さんの大事な弟、遅刻させるわけにはいかねぇもんな。
…あれ?つーか、芽李さん人に用押し付けといて、どこいったんだ?
「万里?調子悪いのか?」
「…いや。
何でもねぇんだけど、なんかな」
いつも通りの臣。
何となく、違和感。
何に対してだ?
「薬飲むか?」
「いらねぇ。ただちょっと、芽李さんは?」
「そうだな、真澄達も起こしてくれたみたいだし。部屋か、脱衣所じゃないか?洗濯機回してたみたいだしな」
「ふーん」
その時は至さんの浮かれ具合に俺も少し充てられて、ほんの少し忘れていた。
そんなに甘い事態じゃなかったってことを。