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3月9日  【A3】

第20章 白雪


万里side

 芽李さんと別れて、芽李さんの部屋へと向かう。
 至さんも素直になったみたいだし、芽李さんも元気になってくれたし、キューピットとしてはいい仕事したんじゃねぇの。

 なんて少し弾んだ気持ちで、芽李さんの部屋のドアの前に立つ。

 …あれ?つーか、俺が起こしていいのか?
 つーか、芽李さんの部屋なんだし、至さんも芽李さんに起こしてもらった方が嬉しいんじゃねぇの?
 つーか…。

 ノックをしてドアノブを捻りながら思ったが、今はもう後の祭りだ。

 「至さん、起きて…って、何してんのあんた」

 成人男性が床の上に正座して、多分、芽李さんのと思われる布団を被って、ジリジリとなる目覚ましをギュッと抱きしめて噛み締めている。

 …いや、何をだよ。
 目覚まし抱きしめて、噛み締めている奴見たことねぇよ。

 「…〜っ、万里ぃ」
 「いや、いいから。ソレ止めろよ」

 ヒョイっと抜き取って、鳴り止まないジリジリを止める。

 「ちょ、何すんだよ」
 「至さん、なかなかにキ」
 「キモいとか言うなよ、傷つくから」

 目覚ましを抜き取った途端、いつも通りの表情に戻った至さんに、何すんだよっていうか、何してんだよって思わず冷静に聞く。

 「いや、…なんて言うか」

 聞いた瞬間ぽぽぽと頬を染める姿はまるで、恋する乙女の如く、…って、こんな表現でさえ似合ってしまうんだよな、この人。

 「なんて言うか?」
 「俺にタキシード着てくれる?って、それもはやプロポーズじゃん」
 「うん?」
 「昨日なんとか部屋まで連れて来て寝かせた後、力尽きた俺がベットの隅で休んでたと思いきや、気づいたら目覚ましで起きたんだよ」
 「うん?」
 「多分、体痛くなんないよーにラグマットに寝せてくれてさ、布団までかけてくれてさ」
 「話折るようでごめんな?布団かけてもらったのはともかく、ラグマットに寝てたのは、ただ単に至さんがたまたまフローリングの方じゃなくてラグマットの方に倒れただけじゃねえ?」
 「バカ万里。じゃあ、目覚ましは?わざわざ俺のためにセットしておいてくれたんだよ、きっと。
 起きる時間覚えててかけたんだよ、きっと」

 布団を抱きしめる至さんに、俺はもうツッコミ入れてやんねぇ。
 …脳みそお花畑かよ。
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