第20章 白雪
万里side
芽李さんと別れて、芽李さんの部屋へと向かう。
至さんも素直になったみたいだし、芽李さんも元気になってくれたし、キューピットとしてはいい仕事したんじゃねぇの。
なんて少し弾んだ気持ちで、芽李さんの部屋のドアの前に立つ。
…あれ?つーか、俺が起こしていいのか?
つーか、芽李さんの部屋なんだし、至さんも芽李さんに起こしてもらった方が嬉しいんじゃねぇの?
つーか…。
ノックをしてドアノブを捻りながら思ったが、今はもう後の祭りだ。
「至さん、起きて…って、何してんのあんた」
成人男性が床の上に正座して、多分、芽李さんのと思われる布団を被って、ジリジリとなる目覚ましをギュッと抱きしめて噛み締めている。
…いや、何をだよ。
目覚まし抱きしめて、噛み締めている奴見たことねぇよ。
「…〜っ、万里ぃ」
「いや、いいから。ソレ止めろよ」
ヒョイっと抜き取って、鳴り止まないジリジリを止める。
「ちょ、何すんだよ」
「至さん、なかなかにキ」
「キモいとか言うなよ、傷つくから」
目覚ましを抜き取った途端、いつも通りの表情に戻った至さんに、何すんだよっていうか、何してんだよって思わず冷静に聞く。
「いや、…なんて言うか」
聞いた瞬間ぽぽぽと頬を染める姿はまるで、恋する乙女の如く、…って、こんな表現でさえ似合ってしまうんだよな、この人。
「なんて言うか?」
「俺にタキシード着てくれる?って、それもはやプロポーズじゃん」
「うん?」
「昨日なんとか部屋まで連れて来て寝かせた後、力尽きた俺がベットの隅で休んでたと思いきや、気づいたら目覚ましで起きたんだよ」
「うん?」
「多分、体痛くなんないよーにラグマットに寝せてくれてさ、布団までかけてくれてさ」
「話折るようでごめんな?布団かけてもらったのはともかく、ラグマットに寝てたのは、ただ単に至さんがたまたまフローリングの方じゃなくてラグマットの方に倒れただけじゃねえ?」
「バカ万里。じゃあ、目覚ましは?わざわざ俺のためにセットしておいてくれたんだよ、きっと。
起きる時間覚えててかけたんだよ、きっと」
布団を抱きしめる至さんに、俺はもうツッコミ入れてやんねぇ。
…脳みそお花畑かよ。