第19章 上匂
何も言えない。
「あ、それから。私は部屋に戻るので、至さん良かったら談話室に顔出してくださいね。
みんな盛り上がってますし、至さんがいた方がみんなも喜びますから。
じゃあ、今度こそ、しつれいします」
引き留めて、伝えればまだ間に合う…のか?
追いかけることができずにいると、少ししてから万里が部屋に入ってきた。
「いたるさーん」
「…」
「至さんってば!」
「…うん、なに」
辛うじて発した言葉がなんと、情けないこと。
「芽李さん、来ただろ?仲直り…」
「芽李、春に結婚するってさ」
「…うん」
「万里、お前知ってたんだな…」
「まぁ」
歯切れの悪い万里。
「まさかお前とか言わないよな?」
「至さんがバグったことだけはわかった。俺まだ結婚できる歳じゃねぇし、芽李さんのことは好きだけど、そんなんじゃねぇよ。第一、芽李さんの好きな人は」
「俺でしょ」
「って、なんだよ。おめでと。じゃあ、両思い」
「…いや、振られた」
「は?」
「振らせた?」
万里が頭を傾げている。
俺もそうしたいところだ。
「振らせたってなに?」
「あは、なんだろうな」
「大丈夫かよ?」
「さぁ?」
「さぁって。至さん気持ち伝えたのか?」
「いや」
「なんでだよ。とにかく、芽李さん探して、言うことちゃんと言おうぜ」
ポンっと俺の肩に手を置いた万里。
「ヤキモチ、だったんだよ」
「ん?」
「ほら、芽李、けっこう色んなやつにちょっかいかけられてただろ、お前とか」
「俺のせいにすんなよ」
「白昼堂々、抱きしめられてたんだよ。知らない奴に、聞くに聞けなくて、傷つける前に距離取ろうとおもったんだ」
「アンタ、本当に社会人?」
「仕方ないだろ、そう言うの興味なかったんだよ。ここまで好きになる奴も初めてだし」
「見た目、経験豊富そうなのに」
「まぁ俺、顔だけは良いから。…って、そんなことはさておき、俺には無理ゲーっすわ」
「諦めるんすか。結婚しちゃうって、その前に奪わなくて」
いやぁ、ほんと。
どうすれば良いんだろうな。
「奪うとか奪わないとか、許嫁にただの俺が勝てるわけなくない?」
「難しいゲームほど燃えるもんじゃねぇの」