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3月9日  【A3】

第19章 上匂


 何も言えない。

 「あ、それから。私は部屋に戻るので、至さん良かったら談話室に顔出してくださいね。
 みんな盛り上がってますし、至さんがいた方がみんなも喜びますから。
 じゃあ、今度こそ、しつれいします」

 引き留めて、伝えればまだ間に合う…のか?

 追いかけることができずにいると、少ししてから万里が部屋に入ってきた。

 「いたるさーん」
 「…」
 「至さんってば!」
 「…うん、なに」

 辛うじて発した言葉がなんと、情けないこと。

 「芽李さん、来ただろ?仲直り…」
 「芽李、春に結婚するってさ」
 「…うん」
 「万里、お前知ってたんだな…」
 「まぁ」

 歯切れの悪い万里。

 「まさかお前とか言わないよな?」
 「至さんがバグったことだけはわかった。俺まだ結婚できる歳じゃねぇし、芽李さんのことは好きだけど、そんなんじゃねぇよ。第一、芽李さんの好きな人は」
 「俺でしょ」
 「って、なんだよ。おめでと。じゃあ、両思い」
 「…いや、振られた」
 「は?」
 「振らせた?」

 万里が頭を傾げている。
 俺もそうしたいところだ。

 「振らせたってなに?」
 「あは、なんだろうな」
 「大丈夫かよ?」
 「さぁ?」
 「さぁって。至さん気持ち伝えたのか?」
 「いや」
 「なんでだよ。とにかく、芽李さん探して、言うことちゃんと言おうぜ」

 ポンっと俺の肩に手を置いた万里。

 「ヤキモチ、だったんだよ」
 「ん?」
 「ほら、芽李、けっこう色んなやつにちょっかいかけられてただろ、お前とか」
 「俺のせいにすんなよ」
 「白昼堂々、抱きしめられてたんだよ。知らない奴に、聞くに聞けなくて、傷つける前に距離取ろうとおもったんだ」
 「アンタ、本当に社会人?」
 「仕方ないだろ、そう言うの興味なかったんだよ。ここまで好きになる奴も初めてだし」
 「見た目、経験豊富そうなのに」
 「まぁ俺、顔だけは良いから。…って、そんなことはさておき、俺には無理ゲーっすわ」
 「諦めるんすか。結婚しちゃうって、その前に奪わなくて」

 いやぁ、ほんと。
 どうすれば良いんだろうな。

 「奪うとか奪わないとか、許嫁にただの俺が勝てるわけなくない?」
 「難しいゲームほど燃えるもんじゃねぇの」


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