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3月9日  【A3】

第19章 上匂



 「…」
 「言わせてもらうけど、芽李はけっこう色んなやつにいい顔してさ、俺にも思わせぶりな態度取ったり、するじゃん」
 「っ、」

 芽李と目が合う。
 彼女がとぼけるくらいなら、どうせなら、思いっきり傷つけてやりたいと思った。

 「最初は面白い奴って思ったけど、なんかそういう態度にも飽きたっていうか。所詮、他の奴と一緒っていうか。
 なんか、ウザいんだよ。全部」
 「…」
 「俺に好かれてるとでも、…思った?」

 単なる八つ当たり。
 なんてね、そのとおりだよ。

 どうしようもなく、好きなんだよ。

 芽李のこと。

 俺のことだけで心を動かしてくれれば良いってずっと思ってるんだよ。
 なんて重いんだって、自分でも持て余してるんだよって。
 
 そう今すぐ伝えれば、彼女なら笑って許してくれそうな気もして。

 「…至さん」
 「なに」

 芽李なら、気づいてくれるんじゃないかって、俺の天邪鬼。

 「ごめんなさい、…私が好きだったんです。
 至さんのこと、どうしようもなく好きだったんです」

 言われた瞬間、血の気が引いた。
 …いや、本当はわかってた。

 「だけど、MANKAIカンパニーのことも、大好きで、だから、」

 それから言ってしまった言葉の重さに気づいてしまった。

 「…ってこういうのがウザいんですよね。
 すみません。
 もう必要以上に至さんに関わりませんから、安心してください」

 それと同時に、俺のことでは泣きもしないんだな、とどこかで思った。
 笑顔を浮かべた芽李をみたら、傷つけることすらできないんだなって思った。

 「至さんに、みんなに言ってなかったんですけど、私春になったらここを出ます。
 結婚するんですよ、許嫁と」

 夢かと思った。

 「…は?」
 「まぁ、みんなっていうか、咲と万里君は知ってるんですけど。
 だから、…至さんがそう思っていたなら丁度良いです」

 淡々と告げられた言葉で、俺は思考を止めた。

 「余計決心がつきました。良い人なんです、その人。
 …って、至さんには関係ないことですよね。
 みんなには、内緒にしてください。
 今は冬組のことの方が大事だから」
 「…」
 「短い間でしたけど、お世話になりました。
 冬が終わるまではよろしくお願い致します」
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