第19章 上匂
side 至
扉が叩かれ、空腹とどうしようもないイライラが募る中、こんな時に来る勇者は監督さんか、万里か、それとも…なんて思いながらドアノブに手をかける。
ドアの向こうに見えた彼女はいつもと変わらない表情で立っていた。
彼女の手に持たれたものに視線を落とすと、今日の打ち上げの残りだろうか。
「何。…いらないって言ったはずだけど」
少し冷たかったかもしれない。
「でも、お腹減ってるかなって。コーラも、持ってきたんです、けど」
「必要ない」
言ったところで、俺のお腹が鳴った。
「…はぁっ、まぁいいや。やっぱもらう。入れば?」
我慢比べのようになったけど、もうお腹もなっちゃったし、仕方なく部屋へと彼女を招き入れた。
その際に、受け取った皿とコーラ。
ついでにぽちっと電気をつけた俺は、何も言わないでソファに座って、ゆっくりと箸を取った。
多分ヤキモチ。
だけど、らしくもなくうまく言葉にすらできずに、イライラだけが募って、彼女をこれ以上傷つけまいと距離をとっていたが、もうほんと、爆発しそうだ。
…っていうか、する。多分。
あの日喫茶店で見た光景が随分と尾を引いている。
万里のことも含め、だ。
いや、その前からあったかもしれないこの感情に、俺はどうすることもできない。
「…至さん、ごめんなさい」
「…」
「私、何かしちゃいましたか?」
「…」
本当にわかってないの?
ピタッと箸を止めて、彼女に振り向いた。
「別に。これは俺の問題、お前は関係ないよ」
引き下がれば、これ以上は言わないつもりだった。
「そう、ですか」
だけど、納得いかないような表情をするから、思わず聞いてしまった。
「なに、言いたいことがあるなら言えば?」
「ここ数日、なんとなく避けられてるような気がして、至さんに何か不快な思いをさせてたら嫌だなって。
だから、謝ったんです」
俺はずっと気持ちを向けてたと思うんだけど。
「不快な思いって何?」
それがわからなから聞いたのだ。
例えば、俺の目の前で口説かれたり?
抱きしめられたり?