第19章 上匂
「良かったら泣いてるわけを教えてくれないかな?
どこかに入らない?」
クイッとコップを傾けるような仕草で戯けたその人に、嫌悪感はなく、コクッとうなづいている私がいた。
「よかった。行きつけのBARがあるんだ。そこで良いかな?」
「はい」
気づいたら涙は止まっていた。
案内されのは、自分では絶対入らないようなおしゃれなBAR。
昼間はカフェをやっているんだよと、紹介される。
東さんは、ものすごく聞き上手だった。
お酒の力もあいまって、挙句彼の相槌の打ち方も完璧で、話しているうちに気持ちが軽くなっていく。
「すみません、見ず知らずの方なのに」
勝手がわからなくて、東さんに頼んでもらったお酒は口当たりが良く、余計グラスが進む。
「ほどほどにね」
「はい」
「ねぇ」
「なんですか?」
「芽李、今更だけどボクについてきて良かったの?」
すっと伸びてきたてが、私の脇の髪をそっと耳にかける。
「ボクが頼んだお酒、案外度数も高かったりして」
「え?」
ふふっとにっこり笑った東さん。
「ボクね、添い寝屋さんをしているんだ。寂しい夜を一緒に過ごしてあげる、」
そのまま耳元まで顔を近づけて、
「"健全な、オシゴト♡"」
などと、甘く囁くように言ってまた離れた。
ゾワっとする。
え、この人やばい人なの?と、今更になって働く危機感。
「あっ、えっと、…」
「ふふふ、まぁ今夜は休業だけど。危なっかしいから、気をつけるんだよ」
そっと手のひらで頬に触れ、すっと唇を撫でられる。
「警戒しないで、お酒ついてたから」
心臓はバックバクである。
今すぐに寮に帰りたくなった。
狐に摘まれたような気分だ。
「どうする?帰る?帰らない?」
「帰…」
脳裏にうかんだ、あの目が、表情が言葉を止める。
「迷ってるんだ」
よしよしと頭を撫でられる。
手つきがプロである。
お酒のせいでちょろくなってるのに、どうしようもないだろう。
幸くんに言ったら怒られそうだ。
「迎え来てもらう?そうだな、それこそ、その彼に」
ぶんぶんと首を振る。
取れそうなほど。
「じゃあ、ボクの家に来る?」
ぶんぶんとさらに首を振る。
食われるどころの話じゃないと思う。
「じゃあ」