第19章 上匂
「…至さん、ごめんなさい」
「…」
本当に怒らせてしまったのかも知れないと、謝罪するも何にも言わない。
「私、何かしちゃいましたか?」
「…」
ピタッと箸が止まって、私を振り向いた。
「別に。これは俺の問題、お前は関係ないよ」
「そう、ですか」
「なに、言いたいことがあるなら言えば?」
「ここ数日、なんとなく避けられてるような気がして、至さんに何か不快な思いをさせてたら嫌だなって。
だから、謝ったんです」
「不快な思いって何?」
それがわからないから、聞いたのに。
「…」
「言わせてもらうけど、芽李はけっこう色んなやつにいい顔してさ、俺にも思わせぶりな態度取ったり、するじゃん」
「っ、」
あの、温度のない目がまた私を捉える。
「最初は面白い奴って思ったけど、なんかそういう態度にも飽きたっていうか。所詮、他の奴と一緒っていうか。
なんか、ウザいんだよ。全部」
「…」
「俺に好かれてるとでも、…思った?」
あぁ、なんで私っていつもこうかな。
「…至さん」
「なに」
「ごめんなさい、…私が好きだったんです。
至さんのこと、どうしようもなく好きだったんです」
胸が痛いのに、涙が出ないのはさっき出し尽くしたからかな。
「だけど、MANKAIカンパニーのことも、大好きで、だから、」
弁解しているのに気づいて、言葉を止める。
「…ってこういうのがウザいんですよね。
すみません。
もう必要以上に至さんに関わりませんから、安心してください」
これ以上嫌われるのも嫌で、って、最初から好かれてもなかったんだろうから。
心を殺して、笑ってやる。
「至さんに、みんなに言ってなかったんですけど、私春になったらここを出ます。
結婚するんですよ、許嫁と」
「…は?」
「まぁ、みんなっていうか、咲と万里君は知ってるんですけど。
だから、…至さんがそう思っていたなら丁度良いです」
言うたびに痛くなる心。
「余計決心がつきました。良い人なんです、その人。
…って、至さんには関係ないことですよね。
みんなには、内緒にしてください。
今は冬組のことの方が大事だから」
「…」
「短い間でしたけど、お世話になりました。
冬が終わるまではよろしくお願い致します」