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3月9日  【A3】

第19章 上匂


 「…至さん、ごめんなさい」
 「…」

 本当に怒らせてしまったのかも知れないと、謝罪するも何にも言わない。

 「私、何かしちゃいましたか?」
 「…」

 ピタッと箸が止まって、私を振り向いた。

 「別に。これは俺の問題、お前は関係ないよ」
 「そう、ですか」
 「なに、言いたいことがあるなら言えば?」
 「ここ数日、なんとなく避けられてるような気がして、至さんに何か不快な思いをさせてたら嫌だなって。
 だから、謝ったんです」
 「不快な思いって何?」

 それがわからないから、聞いたのに。

 「…」
 「言わせてもらうけど、芽李はけっこう色んなやつにいい顔してさ、俺にも思わせぶりな態度取ったり、するじゃん」
 「っ、」

 あの、温度のない目がまた私を捉える。

 「最初は面白い奴って思ったけど、なんかそういう態度にも飽きたっていうか。所詮、他の奴と一緒っていうか。
 なんか、ウザいんだよ。全部」
 「…」
 「俺に好かれてるとでも、…思った?」

 あぁ、なんで私っていつもこうかな。

 「…至さん」
 「なに」
 「ごめんなさい、…私が好きだったんです。
 至さんのこと、どうしようもなく好きだったんです」

 胸が痛いのに、涙が出ないのはさっき出し尽くしたからかな。

 「だけど、MANKAIカンパニーのことも、大好きで、だから、」

 弁解しているのに気づいて、言葉を止める。

 「…ってこういうのがウザいんですよね。
 すみません。
 もう必要以上に至さんに関わりませんから、安心してください」

 これ以上嫌われるのも嫌で、って、最初から好かれてもなかったんだろうから。

 心を殺して、笑ってやる。

 「至さんに、みんなに言ってなかったんですけど、私春になったらここを出ます。
 結婚するんですよ、許嫁と」
 「…は?」
 「まぁ、みんなっていうか、咲と万里君は知ってるんですけど。
 だから、…至さんがそう思っていたなら丁度良いです」

 言うたびに痛くなる心。

 「余計決心がつきました。良い人なんです、その人。
 …って、至さんには関係ないことですよね。
 みんなには、内緒にしてください。
 今は冬組のことの方が大事だから」
 「…」
 「短い間でしたけど、お世話になりました。
 冬が終わるまではよろしくお願い致します」
 
 
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