第19章 上匂
みんなを眺めていると、万里くんが来た。
「何眺めてんの、輪に入ればいいじゃん」
「毎回思うんだ。たぶん、こうやってみんなが談話室に揃って過ごしてるの見ると。
これが見たかった景色かって…
私が来た時、支配人と亀吉しかいなくて」
雄三さん含め、裏方をやってくれていた人達もみんなそれぞれで固まって賑やかに話している。
「こんなに大きい寮なのに、ってすごく寂しく感じたの覚えてる。いつか、満開の笑顔でいっぱいにしてやるって、たくさん笑い声響かせてやるって思ってた。なにより、支配人と左京さんに、見せてあげたかった」
「…ふぅん」
「だから、良かったって思ってるのに、」
ざわざわした室内に紛れて、呟く。
「なんでこの中に至さんがいないんだろうって、」
「なぁ」
「ん?」
近くにあった紙皿に、その辺のものを載せた万里くんがぐいっと差し出す。
「これ、あの人に持ってってやれよ。俺より付き合い長いんだから、わかってんだろ?もー多分腹減って、機嫌悪くなって、ゲーム失敗しての悪循環でイライラしてる頃だと思うから」
「さっきいらないって言われてる状況で、その中に飛び込むの選ばれし勇者にしかできなくない?」
「大丈夫だ、芽李さんは俺に選ばれし勇者だから。つーことで、はい。いらないって言われたら無理矢理にでも連れてこい。左京さんの名前出せば一発だろ」
「鬼、悪魔」
「よし、左京さんに言っとくな」
「いや、万里くんに言ったんですけど」
「いいから早く行け。ウジウジめんどいから」
しっしっと、手を振られ押しつけられたお皿と、仕方なくコーラを持って、来なれた扉の前に立つ。
深呼吸をして、扉をノックした。
しばらくして、ドアがゆっくりと開いた。
ひょこっと結ばれた前髪が揺れる。
私の手に持たれたものに視線を落とすと、そのまま冷めた目をして言った。
「何。…いらないって言ったはずだけど」
「でも、お腹減ってるかなって。コーラも、持ってきたんです、けど」
「必要ない」
言ったところで、至さんのお腹が鳴った。
「…はぁっ、まぁいいや。やっぱもらう。入れば?」
と、部屋の主に招かれるまま中にはいる。
思いっきり気まずい。
ぽちっと電気をつけた至さんは、何も言わないでソファに座って、ゆっくりと箸を取った。