第19章 上匂
私もそろそろ、いづみちゃん達と合流しないとと、3人を見送った後で、動き出そうとしたら聞こえてきた、晴翔の声。
「……いいんですか?」
「どうせ捨てゴマだ」
そこで、もう一度、足を止めた。
聞き捨てならないと思った。
「…そういうことかよ。
舞台のキャストを見て、七尾がいておかしいと思ってた。
アンタが七尾を潜り込ませたんだな」
「…」
「どうなんだよ?」
「それがどーしたの?」
「晴翔、お前…知ってたのか?」
「それが?」
ここにいて、平然とレニさんの隣に立っていて、晴翔が知らないわけないのに、なら、やっぱり晴翔のあの言葉も眼差しも、嘘だったのかな。
気持ちは受け止めてあげることはできないけど、あんな風に言われて困った反面嬉しかった。
そう言うふうに思ってくれてたんだと思ったら、嬉しかったのに。
「…っち。
もうアンタのやり方にはついていけない。
俺もGOD座を抜ける」
「なんだと?
GOD座のトップとして育ててやった恩を忘れたのか」
「ありがたいとは思ってる。
でも、舞台を壊すような人間と一緒にやっていけない」
その場で立ち止まっていると、丞さんがその輪を抜けて、こちらに向かってくる。
どこかに隠れたほうがいい?なんて思っていると、私を見つけて少しだけ顔を歪めた後。
「すまなかった」
そう呟いて、去っていった。
「丞!待ちなさい!」
「GOD座のトップの座を自ら手放すなんて、バカな奴〜」
それが今の彼らなんだと、GOD座なんだと、胸が痛んだ。
私にはどうすることもできないのに、…だけど。
去ってしまった丞さんを追いかける。
GOD座の2人を見ていたら、丞さんだけが知らなかったんだと思ったら、もう足を動かすしかなかった。
"舞台を壊すような人間と一緒にやっていけない"
そう思える丞さんにこそ、見てほしかった。
純粋に、MANKAIカンパニーの舞台を、胸が熱くなる秋組のお芝居を、楽しんでほしいと思った。
外へと向かう自動ドアの前でやっと、追いついた背中に声をかける。
「丞さん!」
案外すぐに立ち止まってくれた。
「丞さん」
「…アンタか」
「すみません、…その、帰ってしまうんですか?」
「まぁ、」
「丞さんは、知らなかったんですよね?」