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3月9日  【A3】

第19章 上匂


 私もそろそろ、いづみちゃん達と合流しないとと、3人を見送った後で、動き出そうとしたら聞こえてきた、晴翔の声。

 「……いいんですか?」
 「どうせ捨てゴマだ」

 そこで、もう一度、足を止めた。
 聞き捨てならないと思った。

 「…そういうことかよ。

 舞台のキャストを見て、七尾がいておかしいと思ってた。
 アンタが七尾を潜り込ませたんだな」
 「…」
 「どうなんだよ?」
 「それがどーしたの?」
 「晴翔、お前…知ってたのか?」
 「それが?」

 ここにいて、平然とレニさんの隣に立っていて、晴翔が知らないわけないのに、なら、やっぱり晴翔のあの言葉も眼差しも、嘘だったのかな。

 気持ちは受け止めてあげることはできないけど、あんな風に言われて困った反面嬉しかった。
 そう言うふうに思ってくれてたんだと思ったら、嬉しかったのに。
 
 「…っち。
 もうアンタのやり方にはついていけない。
 俺もGOD座を抜ける」
 「なんだと?
 GOD座のトップとして育ててやった恩を忘れたのか」
 「ありがたいとは思ってる。
 でも、舞台を壊すような人間と一緒にやっていけない」

 その場で立ち止まっていると、丞さんがその輪を抜けて、こちらに向かってくる。

 どこかに隠れたほうがいい?なんて思っていると、私を見つけて少しだけ顔を歪めた後。

 「すまなかった」

 そう呟いて、去っていった。

 「丞!待ちなさい!」
 「GOD座のトップの座を自ら手放すなんて、バカな奴〜」

 それが今の彼らなんだと、GOD座なんだと、胸が痛んだ。
 私にはどうすることもできないのに、…だけど。

 去ってしまった丞さんを追いかける。

 GOD座の2人を見ていたら、丞さんだけが知らなかったんだと思ったら、もう足を動かすしかなかった。

 "舞台を壊すような人間と一緒にやっていけない"

 そう思える丞さんにこそ、見てほしかった。
 純粋に、MANKAIカンパニーの舞台を、胸が熱くなる秋組のお芝居を、楽しんでほしいと思った。

 外へと向かう自動ドアの前でやっと、追いついた背中に声をかける。

 「丞さん!」

 案外すぐに立ち止まってくれた。

 「丞さん」
 「…アンタか」
 「すみません、…その、帰ってしまうんですか?」
 「まぁ、」
 「丞さんは、知らなかったんですよね?」
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