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3月9日  【A3】

第19章 上匂


 いよいよ、秋組の千秋楽が始まる。

 色々とあったせいか、あっという間にこの時が来たような感覚がある。

 劇場準備の最終確認をしていると、太一君がどこかに向かうのを見つけて声をかけようと思った折、長髪の男性とどこか見慣れたピンクの髪が目に入った。

 …ゴット座の人たちだ。

 何だか嫌な予感がして、太一君を護らないとと直感的に思って駆け出そうとした時、後ろから肩を叩かれた。

 「芽李さん、ここは俺たちに任せろ」

 万里くんと、十座くんだ。
 力強い眼差しに足を止める。

 「太一」
 「こいつか」
 「万ちゃん、十座サン」
 「……やぁ、キミたちの監督から招待状をもらってね。千秋楽、頑張って。楽しみにしてるよ」
 「くせぇ芝居はやめろ。てめぇがこいつにやらせたことは、もう知ってる」

 2人にそう言われてもまだ、どこか飄々としているレニさんに、やっぱりこの人が黒幕だったんだと、改めて思って。

 初めて会った時、お話を聞いた時、本当に凄い方だと思った。
 劇場の名に恥じない、ほんとうにこの舞台の世界では、神様のような方なのだと、思ったのに…。

 尊敬、していたのに。

 太一君の昨日のことが信じられないとかじゃない、フライヤー破かれたり、それなりのことをされている。
 でも、あの花屋で話した時のレニさんとは、別人だと思いたかった。

 「…おや」
 「…で、太一は今後も俺たちの仲間としてやっていくことになったから。今までどうもお世話になりました、と」
 「ー俺は、もう、戻りません」
 「二度とこいつに近づくな」
 「せいぜい行儀よく座って見てろよ」
 「…ふん。行くぞ、丞、晴翔」

 晴翔も、どうして…。
 あの日、気持ちを伝えてくれた時、言ってくれたのに。

 「万ちゃん、十座サン、ありがとうっ…」
 「まだ泣くなよ?メイク崩れるぞ」
 「…うんっ」
 「行くぞ。早くしねぇと、始まる」

 2人に連れられて、私の方に向かってきた太一君と目が合う。

 「2人とも、ありがとう」
 「ふ、芽李さん。1人で行こうとか危なっかしいこと、もうすんなよ」
 「そうだ、俺たちがいるんだからな」
 「太一君も…」
 「芽李サン、俺のこと見てて。絶対芝居で返すから!」
 「うん、大丈夫。信じてるよ」
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