第19章 上匂
いよいよ、秋組の千秋楽が始まる。
色々とあったせいか、あっという間にこの時が来たような感覚がある。
劇場準備の最終確認をしていると、太一君がどこかに向かうのを見つけて声をかけようと思った折、長髪の男性とどこか見慣れたピンクの髪が目に入った。
…ゴット座の人たちだ。
何だか嫌な予感がして、太一君を護らないとと直感的に思って駆け出そうとした時、後ろから肩を叩かれた。
「芽李さん、ここは俺たちに任せろ」
万里くんと、十座くんだ。
力強い眼差しに足を止める。
「太一」
「こいつか」
「万ちゃん、十座サン」
「……やぁ、キミたちの監督から招待状をもらってね。千秋楽、頑張って。楽しみにしてるよ」
「くせぇ芝居はやめろ。てめぇがこいつにやらせたことは、もう知ってる」
2人にそう言われてもまだ、どこか飄々としているレニさんに、やっぱりこの人が黒幕だったんだと、改めて思って。
初めて会った時、お話を聞いた時、本当に凄い方だと思った。
劇場の名に恥じない、ほんとうにこの舞台の世界では、神様のような方なのだと、思ったのに…。
尊敬、していたのに。
太一君の昨日のことが信じられないとかじゃない、フライヤー破かれたり、それなりのことをされている。
でも、あの花屋で話した時のレニさんとは、別人だと思いたかった。
「…おや」
「…で、太一は今後も俺たちの仲間としてやっていくことになったから。今までどうもお世話になりました、と」
「ー俺は、もう、戻りません」
「二度とこいつに近づくな」
「せいぜい行儀よく座って見てろよ」
「…ふん。行くぞ、丞、晴翔」
晴翔も、どうして…。
あの日、気持ちを伝えてくれた時、言ってくれたのに。
「万ちゃん、十座サン、ありがとうっ…」
「まだ泣くなよ?メイク崩れるぞ」
「…うんっ」
「行くぞ。早くしねぇと、始まる」
2人に連れられて、私の方に向かってきた太一君と目が合う。
「2人とも、ありがとう」
「ふ、芽李さん。1人で行こうとか危なっかしいこと、もうすんなよ」
「そうだ、俺たちがいるんだからな」
「太一君も…」
「芽李サン、俺のこと見てて。絶対芝居で返すから!」
「うん、大丈夫。信じてるよ」