• テキストサイズ

3月9日  【A3】

第19章 上匂


 「太一君の、ポートレイトもよかったよ」

 いづみちゃんが言ったのに、みんなが続く。

 「お前の気持ちはよくわかった。つらかったな」
 「わかってやれなくて、悪かった」
 「てめぇのしたことは許されることじゃねぇ。でも、てめぇのことは許す」
 「どっちだよ」

 私は何も言えなかった。
 言えるはずもなかった。

 嫌がらせの類に私は関係なかったと、安心してしまった時点で。

 「罪を恨んで人を憎まず。太一のことは許すって事だろ」
 「俺、やっぱりみんなと芝居がしたいよぉ…っ」

 真剣に向き合うみんなに、太一君の言葉に、グッと気持ちが重くなった。
 万里君に受け止めてもらって、月岡さんのことで浮かれて、太一君はこんなに思い悩んでたのに、私だけ…。

 「太一君…」
 「お前は、どこの七尾太一なんだよ」
 「ゴット座の七尾太一なのか?それが、今の本当のお前なのか?」
 「俺はー。でも、そんな今さら、むしのいいことなんて」
 「いいから言ってみろ」
 「お前が本当の居場所だって思う場所を言えばいい」

 みんなすごいな。
 太一君も、すごいな…。

 「大丈夫だよ、太一君」

 受け止めるような、みんなの言葉に太一君が決心したように言う。

 「俺はーーっ、MANKAIカンパニーの、…秋組の七尾太一ッス!」

 かっこいいな、君たちは。

 「…上出来。
 お前は、俺たちが絶対守る。ゴット座とかいうゲス野郎どもには渡さねぇ」
 「あぁ。舞台をぶっ壊すような奴らのところなんて、戻る必要ねぇ」

 同時に、やっぱり羨ましいと思った。

 「演劇やる人間の風上にも置けねぇ」
 「太一はここにいていいんだ」
 「みんなーー」
 「お前ら、ゴット座が何してこようが、絶対明日の舞台成功させっぞ!!」

 その声に、秋組のみんなが応える。

 私だけが、反応できずにいた。
 その後解散になって、みんながそれぞれの部屋に戻るのを見送った。
 平然は装えていたと思う。

 お前も早く休めよと、左京さんに釘を刺されたけど、明日の準備が終わったらと曖昧に答えた。

 でも、一度落ちた気分はなかなかあがらず、なかなか手が進まない。
 臣君が手伝うって言ってくれたけど、明日は千秋楽でしょと、それを理由に断った。
 ただ、察しのいい臣くんに、バレるのが怖かっただっただけだ。
/ 546ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp