第19章 上匂
仕事と買い物を終え寮に戻った時、談話室から万里君の声が聞こえた。
「これで全員か。じゃあ、最後は俺な」
何となく入るのも憚られて、ドアノブを捻るのに躊躇する。
間も無く、万里君のポートレートが始まった。
熱い胸の内を聞いた。
ほんの数分のことなのに、一つの舞台を見たような気持ちになった。
上手い、以上の何か。
もっと、グッと来るもの。
胸を打たれる感覚を、今確かに感じた。
「ーー俺は生まれて初めて、マジになれるモンに出会えたんだ」
慈しむように言った後、
『舞台の上でも、絶対お前をぶちのめす』
力強い声が寮内に響き渡った。
「…以上。俺の『ポートレイト』終わり。っつーことで、入ってきていいぞ。誰か…って、芽李さんかよ、おかえり」
「ただいま」
「芽李ちゃん。おかえり。
万里君、すごく良くなったよ!」
「おかえり。うん。十座のもよかったけど、万里のも並ぶな」
「え!秋組全員でポートレイトしてたの??万里君だけじゃなく?!」
「まぁ、ちょっとな。見たいって顔に書いてあるけど、また今度な」
見たいと思っていないと言ったら嘘になるけど、あの熱量でポートレイトをやるくらいだ、私だって一応空気を読む。
「大丈夫。誕生日にみんなにやってもらうから」
「はは、芽李さんならやりかねない、怖いな」
「ふふ。ごめんね、邪魔しちゃって、荷物置きに来ただけなの。
そしたら、万里君のポートレイト始まったところで、部屋に戻ろうと思ったんだけど、聞き入ってしまって。
だから、荷物置いたらもどるので」
買い物袋の一つを臣君が持ってくれ、キッチンに入る時そう言えば、
「芽李さん、ここにいて、」
太一君の縋るような声が聞こえて、そっちに視線を向ける。
「お願い、」
「…え。いいけど。いいのかな」
ちらっと、ほかの秋組を見ればうなづかれた。
「わかった」
さっさと片付けをすませ、そっとその輪に入る。
「芽李さん、俺なんだ。衣装とか…」
言い淀む彼のその言葉に、驚いたのと同時にホッとしてしまった自分がいた。
真剣に話す太一君に、私は自分が一因じゃなくてよかったって、思った瞬間に自分が嫌になった。
「ごめんなさい」
「…」