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3月9日  【A3】

第19章 上匂


 「無責任だけど、絶対です」
 「絶対、ですか?」
 「はい、絶対です。大丈夫、…月岡さんを傷つけるものは、うちのカンパニーにはありませんから、安心してオーディション来てください」
 「俺がオーディションいくのは、確定なんですか?」
 「確定って言いたいけれど、月岡さんのこころ次第で、大丈夫です。
 秋の子達を見て、心と向き合って決めてください」

 やっと、目が合った。
 はじめ、不安そうに揺れた目に光が宿る。

 「芽李さん…」
 「すみません、偉そうなこと言って」
 「いえ。色々とありがとうございます」

 そんなやり取りをしていたところに、店長がナイスタイミングで戻ってくる。
 きっとタイミングを測ってくれていたに違いない。

 「おばぁちゃんも、ありがとうございます」

 月岡さんの言葉に満足そうにうなづく。

 「私は何にもしてないわ。
 つむちゃん、あなたも私の孫みたいに思っているんだからね」
 「敵わないな…」
 「あなた達2人のことは、特に、本当に可愛く思ってるのよ」
 「おばぁちゃん」
 「応援してるからね」

 本当に、優しい人だ。
 月岡さんが言う通り私には、敵わない。

 「さて、じゃあ、1日頑張りましょう。ね、芽李ちゃん。
 つむちゃん、今日は時間は?」
 「午前中なら少し」
 「それなら、お手伝い頼めるかしら?」

 クスッと紬さんが笑うのもまた、絵になる。

 「もちろんです」

 その穏やかな声が、奏でるセリフは一体どんな色をするんだろう、なんて、密かに胸が鳴った。

 いづみちゃんに、月岡さんのこと相談したら何て言うかな。
 綴くんに、冬組に入りそうな、いい役者さんになりそうな人がいたって言ったら、どんな本に仕上げてくれるかな。
 幸君はどんな衣装を作って、それを着た月岡さんはどんなふうに染まって、他にはどんな人が集まって、…考えるだけでワクワクした。

 秋もまだまだ始まったばかりだと言うのに。
 冬が来て仕舞えば、春も目前だと言うのに。

 今の季節が続いてほしいと思いつつ、次のの季節も待ち遠しい。

 なんて、私もずいぶん呑気だ。
 盲目的にしか、捉えられない。

 狂おしいほど、季節しかみられない。

 それが小さな歪みになって、やがて大きくなるまでそう時間はかからなかった。
 
 ごめんね、至さん…。
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