第19章 上匂
「無責任だけど、絶対です」
「絶対、ですか?」
「はい、絶対です。大丈夫、…月岡さんを傷つけるものは、うちのカンパニーにはありませんから、安心してオーディション来てください」
「俺がオーディションいくのは、確定なんですか?」
「確定って言いたいけれど、月岡さんのこころ次第で、大丈夫です。
秋の子達を見て、心と向き合って決めてください」
やっと、目が合った。
はじめ、不安そうに揺れた目に光が宿る。
「芽李さん…」
「すみません、偉そうなこと言って」
「いえ。色々とありがとうございます」
そんなやり取りをしていたところに、店長がナイスタイミングで戻ってくる。
きっとタイミングを測ってくれていたに違いない。
「おばぁちゃんも、ありがとうございます」
月岡さんの言葉に満足そうにうなづく。
「私は何にもしてないわ。
つむちゃん、あなたも私の孫みたいに思っているんだからね」
「敵わないな…」
「あなた達2人のことは、特に、本当に可愛く思ってるのよ」
「おばぁちゃん」
「応援してるからね」
本当に、優しい人だ。
月岡さんが言う通り私には、敵わない。
「さて、じゃあ、1日頑張りましょう。ね、芽李ちゃん。
つむちゃん、今日は時間は?」
「午前中なら少し」
「それなら、お手伝い頼めるかしら?」
クスッと紬さんが笑うのもまた、絵になる。
「もちろんです」
その穏やかな声が、奏でるセリフは一体どんな色をするんだろう、なんて、密かに胸が鳴った。
いづみちゃんに、月岡さんのこと相談したら何て言うかな。
綴くんに、冬組に入りそうな、いい役者さんになりそうな人がいたって言ったら、どんな本に仕上げてくれるかな。
幸君はどんな衣装を作って、それを着た月岡さんはどんなふうに染まって、他にはどんな人が集まって、…考えるだけでワクワクした。
秋もまだまだ始まったばかりだと言うのに。
冬が来て仕舞えば、春も目前だと言うのに。
今の季節が続いてほしいと思いつつ、次のの季節も待ち遠しい。
なんて、私もずいぶん呑気だ。
盲目的にしか、捉えられない。
狂おしいほど、季節しかみられない。
それが小さな歪みになって、やがて大きくなるまでそう時間はかからなかった。
ごめんね、至さん…。