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3月9日  【A3】

第19章 上匂


 「俺、少しだけ嘘つきました」
 「嘘?」
 「はい、すみません。…ここに通うようになったのは、本当にたまたまだったんですけど、」

 月岡さんの視線が少しだけ落ちる。

 「ここ最近、このお店に飾られた劇団のポスターを見て、どうしても気になって」

 私が働くようになって、店長も応援してくれることもあって、お店の隅に春組の立ち上げからずっと、フライヤーを少し大きくしたようなポスターを飾らせて貰っていた。

 「いつ、言おうかなって思ってたタイミングで、店長さんから芽李さんの話を聞いて、…それで、今日時間を作って欲しいってお願いしたんです」
 「私の話?」
 「はい、それもたまたまだったんですけど、芽李さんが、お店番に出られてなかった時に、少しだけ。
 劇団のことも、軽く…そしたら、興味が湧いて」
 「店長はなんて?」

 どんなことを言ったんだろうって、思いながら耳を澄ます。

 「…癒えるんじゃないかって」

 消え入りそうな声でそう聞こえた気がした。

 「人の夢に寄り添って、笑わずに親身に、自分のことのように想える優しい子って、店長さんが言っていました」

 それは、なんて言うかまぁ…

 「…過大評価な気もしますけど」

 そんなことを思ってもらえることが、ありがたい反面認めてしまうには烏滸がましい気がする。

 「そんな、大層な人間じゃありませんよ。みんなが直向きに頑張ってるから、…そう映ったのなら、みんなのおかげで、…」
 「…なら、俺の夢も、応援してくれますか?」
 「え、あ!はい!もちろんです」
 「これ、ありがとうございます」

 きゅっと、抱え直したフライヤーを大切に抱きしめるようにして持つ、月岡さんにかける言葉が見つからない。

 「時間作って、見に行きますね」
 「お待ちしてます」
 「あの、それから今日朝一緒にいた方」
 「あぁ、三角君って言う劇団の子です。
 凄く優しい子で、いつもは穏やかなのに目を見張ってしまうような演技とアクロバットをするんです。楽しい子です」
 「芽李さんは、本当にMANKAIカンパニーのことを、想っているんですね」
 「えぇ大切な居場所、…ですから。その場所に、冬になったら月岡さんも居てくれたら、って思います」
 「…」
 「月岡さんは、うちのカンパニーに入ると思います、ぜったい」
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