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3月9日  【A3】

第19章 上匂


 「私でいいんですか?」

 そう思う反面、そんなに深い仲じゃないからこそ、言えることもあるのかもしれないと耳を傾ける。

 「実は、…その、あの」

 言い淀んだ彼の次の言葉を待つ。
 少し葛藤した後、諦めたように告げる。

 「俺もお芝居、興味があって」

 突然のことに、耳を疑う。

 「本当ですか?!」
 「え、あ…はい」
 「あ、じゃあ、ちょっと待ってくださいね。えっと…」

 予備に持っていたフライヤーを鞄から取り出す。

 「これ、良かったらどうぞ」

 裏面には、冬組の劇団員募集が記載されている。

 「私、ずっとお誘いしたかったんですけど、絶対、紬さん舞台映えしそうって!」
 「っ」
 「あの、弟…この前一緒にいた子も所属していて、私は今そこで寮母的なことをさせてもらってるんですけど、劇団自体は春夏秋冬で4つの組に別れていて」

 思わず興奮して語ってしまう。
 だって、ずっと思ってたから。

 しかも、秋が終われば冬が来る。

 なんとなく、何となくだけど、月岡さんの雰囲気に合うと思った。

 「あ、芽李さんっ、近い…です、」
 「え、あ…すみません」

 前のめりで宣伝したせいで、月岡さんが引いている。
 しかも、仕事中だというのに。
 店長が戻ってこないのと、お客様が他にいないことをいいことに、劇団員勧誘なんて我ながらけしからん。

 でも、綴君のかく本に月岡さんが答えるところが容易に想像できてしまって、それからせっかくお芝居に興味があるとおっしゃったのに、他の劇団に行ってしまうのは勿体無いって思ってしまったから。

 「まだ、秋組までしかないんです。秋が終わったら、冬組を立ち上げるんです。
 メンバーは決まってなくて、オーディションで。
 うちの劇団は、すごく個性的であったかくて優しくて、もう宝箱みたいなんです」
 「そうなんですね、」
 「…あ、そうだ。
 月岡さんは、お芝居経験あるんですか??」
 「学生演劇を少しだけ」

 少し顔を歪めた月岡さんにはきっと、なにかあったんだろうと思う。
 それでも、それだからこそ、MANKAIカンパニーに来てくれたらどれだけいいだろうって思った。

 「…芽李さんは、凄いですね」
 「え?」
 「俺が言い淀んだこと、欲しかった言葉、何でもないようにいってしまう。すごく、いい顔で」
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