第19章 上匂
相変わらずのエンジェルぶりである。
…知らんけど。
「あら、芽李ちゃん、つむちゃん、おはよう」
腰を丸めて、店先から出てきたおばあちゃんに、2人でおはようございますと返す。
「いつも、準備ありがとう。疲れたでしょう?お上がんなさい」
「店長、きたばかりですよ」
「いいのよ、一服よ」
ニッコリと朗らかに笑って、私たちの手を取ると奥まで招く。
「美味しいお饅頭と、お萩たぁくさんもらって、2人と食べたかったのよ」
座ってと、用意された座布団に言われるがまま座る。
店長であるおばあちゃんが言うなら仕方あるまい。
ちゃぶ台を3人で囲んですぐ、ほかほかの湯気のたった緑茶を目の前に置かれる、それからお饅頭とお萩も。
すぐ出せるよう、用意してくれてたみたいだ。
「ありがとうございます」
「俺まですみません。ありがとうございます」
「いいのよ。ふふっ、ささ、召し上がって」
いただきます、と、手を合わせる。
こんなに緩くていいのかと思いつつも、他でもない店長がそう言ってくれるならと、手を伸ばす。
「ねぇねぇ、芽李ちゃん」
「はい?」
「左京ちゃんは、元気?」
「はいっ、舞台も頑張ってます。…そうだ。これ、千秋楽のチケット。左京さんと、私からです」
渡し忘れていたと、バックから取り出したオレンジ色の秋組のマークが金字で描かれた長封筒をスッと差し出す。
「いつもありがとうございます」
「あらまぁ、いいのかしら?」
「もらってください。左京さん、カポネっていう役をしてるんですけど、とってもかっこいいんです」
「ふふ、なんだか楽しみね。ありがとう、芽李ちゃんも。左京ちゃんにもよろしく言っておいてね。
ありがたく、頂戴するわ」
と、やり取りをしたのち、少し席を外すわねと、立ち上がったおばあちゃん。
チケットを片手に持って行ったから、しまってくるのかな、なんて思いながら、お茶を傾ける。
「芽李さん」
隣からの声に目を向ければ、月岡さんが気まずそうに私を見ている。
初めて見た顔だ。いつもは、もっと爽やかなのに。
…そういえば、いつからだっけ、月岡さんに下の名前で呼ばれるようになったのは。
別に、気にはしないけど、ふと思った。
「あの、折り言って相談が」