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3月9日  【A3】

第19章 上匂


 相変わらずのエンジェルぶりである。
 …知らんけど。

 「あら、芽李ちゃん、つむちゃん、おはよう」

 腰を丸めて、店先から出てきたおばあちゃんに、2人でおはようございますと返す。

 「いつも、準備ありがとう。疲れたでしょう?お上がんなさい」
 「店長、きたばかりですよ」
 「いいのよ、一服よ」

 ニッコリと朗らかに笑って、私たちの手を取ると奥まで招く。

 「美味しいお饅頭と、お萩たぁくさんもらって、2人と食べたかったのよ」

 座ってと、用意された座布団に言われるがまま座る。
 店長であるおばあちゃんが言うなら仕方あるまい。

 ちゃぶ台を3人で囲んですぐ、ほかほかの湯気のたった緑茶を目の前に置かれる、それからお饅頭とお萩も。
 すぐ出せるよう、用意してくれてたみたいだ。

 「ありがとうございます」
 「俺まですみません。ありがとうございます」
 「いいのよ。ふふっ、ささ、召し上がって」

 いただきます、と、手を合わせる。
 こんなに緩くていいのかと思いつつも、他でもない店長がそう言ってくれるならと、手を伸ばす。

 「ねぇねぇ、芽李ちゃん」
 「はい?」
 「左京ちゃんは、元気?」
 「はいっ、舞台も頑張ってます。…そうだ。これ、千秋楽のチケット。左京さんと、私からです」

 渡し忘れていたと、バックから取り出したオレンジ色の秋組のマークが金字で描かれた長封筒をスッと差し出す。

 「いつもありがとうございます」
 「あらまぁ、いいのかしら?」
 「もらってください。左京さん、カポネっていう役をしてるんですけど、とってもかっこいいんです」
 「ふふ、なんだか楽しみね。ありがとう、芽李ちゃんも。左京ちゃんにもよろしく言っておいてね。
 ありがたく、頂戴するわ」

 と、やり取りをしたのち、少し席を外すわねと、立ち上がったおばあちゃん。
 チケットを片手に持って行ったから、しまってくるのかな、なんて思いながら、お茶を傾ける。

 「芽李さん」

 隣からの声に目を向ければ、月岡さんが気まずそうに私を見ている。
 初めて見た顔だ。いつもは、もっと爽やかなのに。
 …そういえば、いつからだっけ、月岡さんに下の名前で呼ばれるようになったのは。
 別に、気にはしないけど、ふと思った。

 「あの、折り言って相談が」
 
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