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3月9日  【A3】

第19章 上匂


 行ってきますとみんなが歩き出した瞬間、少し出遅れた太一くん。
 体調でも悪いのかと心配に思いながら、声をかけるとまだ少し眠いといいながら、みんなの背中に慌ててついて行った。

 「芽李さん、どうしたんすか?」

 綴君の声に振り向けば、臣君と一緒に大学に向かうところだったらしい。

 「あぁ、いや。2人ともいまから?」
 「あぁ」
 「そうっす」
 「そっか、気をつけて行ってらっしゃい。夕飯、美味しいの作るから2人とも頑張って学業に励んで」
 「ははは、了解しました」
 「はい、行ってきます」

 2人に手を振る。
 さてと、私もそろそろ行かないと。

 太一君のことも、至さんのことも気になるけど、仕事だし帰ってきてから2人に声をかければいいかと思っていた。

 後回しにするつもりはなかったけど、だけど、思い立ったときに動かなきゃ、後悔するなんてことこの時の私はわかっている"つもり"だった。

 「めい、もう行くの?」
 「三角君。うん、もう行くよ」
 「オレも一緒にいっていい?」
 「うん、もちろん」
 「やったぁっ」

 キラキラっと笑いながら隣で靴を履く三角くん、可愛いな。

 「三角くんは、さんかく探し?」
 「そぉだよ!後ね、猫さんと待ち合わせしてる〜」
 「そっか、猫さんによろしくね」
 「はぁ〜い」

 なんて、三角くんのペースに合わせてゆっくりと職場まで向かえば、反対方向から見知った姿が目に入った。

 「めい、またね。お仕事、がんばって」
 「うん、ありがとう」

 軽い足取りで、ぴょんぴょんと去っていく水色に手を振って、シャッターを開ける。

 「おはようございます、芽李さん」

 相変わらずの少し早めの登場に、驚きもせず声をかける。

 「おはようございます、月岡さん」

 ニッコリと笑った月岡さんに私もニッコリと返す。

 「今日はおばあちゃんに呼ばれていて、なので俺も手伝わせてください」

 寄せ植えに使う苗のポットがたくさん入ったカゴを、どこにそんな力があるのかと思うほど、軽々しく持って店の準備を手伝ってくれる。

 「いつもすみません。お客様なのに」
 「いえ、俺がしたくてしてるんです。…ところで」
 「はい?」
 「あぁ、いえ。なんでもないです。この子達も、お外ですよね」
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