第19章 上匂
行ってきますとみんなが歩き出した瞬間、少し出遅れた太一くん。
体調でも悪いのかと心配に思いながら、声をかけるとまだ少し眠いといいながら、みんなの背中に慌ててついて行った。
「芽李さん、どうしたんすか?」
綴君の声に振り向けば、臣君と一緒に大学に向かうところだったらしい。
「あぁ、いや。2人ともいまから?」
「あぁ」
「そうっす」
「そっか、気をつけて行ってらっしゃい。夕飯、美味しいの作るから2人とも頑張って学業に励んで」
「ははは、了解しました」
「はい、行ってきます」
2人に手を振る。
さてと、私もそろそろ行かないと。
太一君のことも、至さんのことも気になるけど、仕事だし帰ってきてから2人に声をかければいいかと思っていた。
後回しにするつもりはなかったけど、だけど、思い立ったときに動かなきゃ、後悔するなんてことこの時の私はわかっている"つもり"だった。
「めい、もう行くの?」
「三角君。うん、もう行くよ」
「オレも一緒にいっていい?」
「うん、もちろん」
「やったぁっ」
キラキラっと笑いながら隣で靴を履く三角くん、可愛いな。
「三角くんは、さんかく探し?」
「そぉだよ!後ね、猫さんと待ち合わせしてる〜」
「そっか、猫さんによろしくね」
「はぁ〜い」
なんて、三角くんのペースに合わせてゆっくりと職場まで向かえば、反対方向から見知った姿が目に入った。
「めい、またね。お仕事、がんばって」
「うん、ありがとう」
軽い足取りで、ぴょんぴょんと去っていく水色に手を振って、シャッターを開ける。
「おはようございます、芽李さん」
相変わらずの少し早めの登場に、驚きもせず声をかける。
「おはようございます、月岡さん」
ニッコリと笑った月岡さんに私もニッコリと返す。
「今日はおばあちゃんに呼ばれていて、なので俺も手伝わせてください」
寄せ植えに使う苗のポットがたくさん入ったカゴを、どこにそんな力があるのかと思うほど、軽々しく持って店の準備を手伝ってくれる。
「いつもすみません。お客様なのに」
「いえ、俺がしたくてしてるんです。…ところで」
「はい?」
「あぁ、いえ。なんでもないです。この子達も、お外ですよね」