第19章 上匂
「起こしに来たんだけど、入れ違っちゃたか」
「仕事、早く行ったんじゃない?会議とか」
「うん、かもね。ボードに書いてなかったから」
少し珍しいなぁなんて思いながら、真澄くんと談話室に戻る。
たまたま。今日がそういう日だったのかもしれない。
少しモヤっとしてしまったのは、至さんのこと近い距離でわかってるつもりだったからかもしれない。
なんて、そうとう驕ってるか。
「芽李も、今日仕事?」
「うん。みんなよりちょっと遅く出るけど」
「ふーん」
興味があるのかないのか、いつも通りの返事にちょうど談話室について、真澄くんは誰もいないソファに一直線でそのままごろんと横になった。
少ししてから、咲の真澄くんもう行くよなんて起こす声が聞こえてきて、せっかくだからと3人のお見送りをしようと私も作業を一旦辞めた。
「咲」
「あ、ねぇちゃん」
咲がこっちを見たから、代わって、真澄くんに声をかける。
「いづみちゃんが」
そう声をかけると、バッと起き上がる。
「監督がなに?」
「朝食食べてるなぁって思って。そんなことより、遅刻しちゃうよ」
そんなことかともう一度なら体制に戻りそうになったところを、
「朝刊と一緒にまた新しいパン屋さんできたって、チラシ入ってたよ?カレーパンもあるかも、予約できるみたいだから、学校帰りにいいんじゃないかなぁ」
なんて独り言のようにいうと、徐に立ち上がった真澄くん。
「さすが、ねぇちゃん」
綴くんが読んでいた新聞をババっとうばい、チラシを掴むときらきらした顔をしていた。
「たまたまだよ、ラッキーだったね。咲達もO高組も出るみたいだし、お見送りするね」
「うんっ!」
はぁ、可愛い。さすが咲。
その笑顔だけで、いまこの瞬間世界が平和になった気がする。
「ねぇちゃん?」
心配そうな咲に覗き込まれて、デレデレとした顔を引き締める。
「ううん、なんでもない。いこっか」
ブラコンでもなんでもいい。
やっぱうちの弟が1番可愛いし愛でるし、弟と仲良くしてくれるみんなも無条件に愛たいし、感謝してる。
私よりも大きいみんなの背中を追いながらそんなことを考えていた。
「はい、みんなお弁当」
一人一人に手渡す。
みんなに一声ずつかけたところで、違和感がした。