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3月9日  【A3】

第4章 寒緋桜


 落ち込んだ気分のまま寮に入り、一応声だけと思って談話室に顔を出す。


ー…ガチャっ

 「ただいま戻りまし………しつれいします。」

 一旦ドアを閉めて冷静になる。
 というのも、ドアを開けた瞬間に飛び込んできた光景が一言で言えば "やばかった" からだ。


 フリフリのエプロンをつけてメガネを光らせた支配人が、濃いピンクの髪をした男の子をゾンビ化させていたら、誰だってドアを閉めるに決まっている。


 いや、待ってまって、今シリアスなシーンじゃん。
 なんてメタイことを言っているのは、自覚しているが……
 意を決して、なかに足を踏み入れる。

 「芽李さん!お帰りなさい!
そして、聞いてください!

 新しい劇団員ですよ!!!!」


 新しい劇団員って言われてる彼、ゾンビ化しちゃってるけど。

 「初めまして!」

 私の顔を見上げてパッと姿勢を正した、その彼を、思わず二度見する。

 ドキッとした…、




 だって、私君を知ってるから。
 君を探していたから。

 「佐久間咲也です!」

 そんなこと、昔から知ってる…。


 じゃあ、

 やっぱりさっきぶつかりそうになったのは、
 咲で間違えなくて、

 そしてきっと、…

 彼は、

 …私のことなんて、覚えていないんだろうな。

 「さ………酒井……芽李、

 酒井芽李です。
 寮母さん的な仕事を任されてます。

 ふふ、よろしくね!」

 …私の意気地無し。

 口を継いでできた母の旧姓。

 それについて、なにも言わない支配人に、
 今だけはありがたいと思った。


 まだ言えない、…咲には。
 言っちゃいけない。
 彼のこれまでを知らないままに、無責任に。

 "それに、君だって逃げただろう?"

 そうなのかもしれない、だから今でもその言葉が胸を締め付けてるんだ。

 だから、今度は…ー








 「芽李さん!どうにかなりましたね!」

 支配人に声をかけられてハッとする。

 「まずは、旗揚げ…」

 その前に、左京さんの説得が優先かな…
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