第4章 寒緋桜
落ち込んだ気分のまま寮に入り、一応声だけと思って談話室に顔を出す。
ー…ガチャっ
「ただいま戻りまし………しつれいします。」
一旦ドアを閉めて冷静になる。
というのも、ドアを開けた瞬間に飛び込んできた光景が一言で言えば "やばかった" からだ。
フリフリのエプロンをつけてメガネを光らせた支配人が、濃いピンクの髪をした男の子をゾンビ化させていたら、誰だってドアを閉めるに決まっている。
いや、待ってまって、今シリアスなシーンじゃん。
なんてメタイことを言っているのは、自覚しているが……
意を決して、なかに足を踏み入れる。
「芽李さん!お帰りなさい!
そして、聞いてください!
新しい劇団員ですよ!!!!」
新しい劇団員って言われてる彼、ゾンビ化しちゃってるけど。
「初めまして!」
私の顔を見上げてパッと姿勢を正した、その彼を、思わず二度見する。
ドキッとした…、
だって、私君を知ってるから。
君を探していたから。
「佐久間咲也です!」
そんなこと、昔から知ってる…。
じゃあ、
やっぱりさっきぶつかりそうになったのは、
咲で間違えなくて、
そしてきっと、…
彼は、
…私のことなんて、覚えていないんだろうな。
「さ………酒井……芽李、
酒井芽李です。
寮母さん的な仕事を任されてます。
ふふ、よろしくね!」
…私の意気地無し。
口を継いでできた母の旧姓。
それについて、なにも言わない支配人に、
今だけはありがたいと思った。
まだ言えない、…咲には。
言っちゃいけない。
彼のこれまでを知らないままに、無責任に。
"それに、君だって逃げただろう?"
そうなのかもしれない、だから今でもその言葉が胸を締め付けてるんだ。
だから、今度は…ー
「芽李さん!どうにかなりましたね!」
支配人に声をかけられてハッとする。
「まずは、旗揚げ…」
その前に、左京さんの説得が優先かな…