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3月9日  【A3】

第4章 寒緋桜


 とは、言ったものの…

 「劇団員ってどうすれば…」

 流石に支配人に任せ過ぎて、こんな肝心な時に動けないなんて。
 1人でもいてくれれば、状況が変わるのに。

 あの常連さんを誘う?

 …だめだ、巻き込むわけにはいかない。

 でも、どうにかしないとっ、
 闇雲に歩いても仕方ないのに、携帯も置いてきちゃったし…

 「左京さんのバカやろー!」

 天鵞絨町の中心でバカと叫ぶ。
 何年も前にそんな話あったな……ないか?

 「近所迷惑だ。」

 「へ、」

 ぐいっと肩を引かれる。
 あれ、既視感。


 あっという間に黒塗りの車に押し込まれる。


 だから、これ拉致だってば。



ーーーーーー
ーーー


 「何をしていた?」
 「…左京さんにバカって叫んでました」

 「あぁん?兄貴に向かってそんな口!!」
 「迫田」

 「ヘイ」

 「…久しぶりに、本当に悔しくて、悔しくて。
 おかしいとは思うんですよ、私カンパニーのこと全然わからないけど、ここでやめちゃもったいないって思ってて、

 なのに左京さんは勝手に約束破るし、支配人は慌ててるだけだし、

 でも、2人が教えてくれたんじゃないですか、あの寮とか劇団員のこととか、夢を見させた責任あると思います」

 「…」

 「左京さん、私なんでもします!なんなら身売りでもなんでも、貯金全部使っても構わない、せめて1ヶ月どうにかなりませんか」

 「………馬鹿か、お前は。俺はヤクザだぞ。
 身売りだのなんだのそんなこと、絶対に言うんじゃねぇ。」

 「…すみません、軽率でした。

 だけど、私、…わたしは、…」

 「迫田、」
 「ヘイ」

 結局何も出来なかった。

 左京さんも相変わらず、ポーカーフェイスだけど…
 なんとも思ってないわけじゃないのに、むしろここまで待ってくれたのに私、期待に応えられなかっただけだ。

 すっと横から伸びてきた骨張った手が、不器用に私の頭を撫でる。



 「…気落ちしてんじゃねぇ、って、俺が言えた義理じゃねぇな。」




 ー…寮を出た時かろうじて明るかった空は、いつのまにか真っ暗になっていて、今日も終わりに近づいている。

 「着いたぞ。降りろ。」
 「…ありがとうございます、あの…いえ、なんでもないです。」

 お茶でも、なんて言える雰囲気じゃないか…。


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