第4章 寒緋桜
とは、言ったものの…
「劇団員ってどうすれば…」
流石に支配人に任せ過ぎて、こんな肝心な時に動けないなんて。
1人でもいてくれれば、状況が変わるのに。
あの常連さんを誘う?
…だめだ、巻き込むわけにはいかない。
でも、どうにかしないとっ、
闇雲に歩いても仕方ないのに、携帯も置いてきちゃったし…
「左京さんのバカやろー!」
天鵞絨町の中心でバカと叫ぶ。
何年も前にそんな話あったな……ないか?
「近所迷惑だ。」
「へ、」
ぐいっと肩を引かれる。
あれ、既視感。
あっという間に黒塗りの車に押し込まれる。
だから、これ拉致だってば。
ーーーーーー
ーーー
「何をしていた?」
「…左京さんにバカって叫んでました」
「あぁん?兄貴に向かってそんな口!!」
「迫田」
「ヘイ」
「…久しぶりに、本当に悔しくて、悔しくて。
おかしいとは思うんですよ、私カンパニーのこと全然わからないけど、ここでやめちゃもったいないって思ってて、
なのに左京さんは勝手に約束破るし、支配人は慌ててるだけだし、
でも、2人が教えてくれたんじゃないですか、あの寮とか劇団員のこととか、夢を見させた責任あると思います」
「…」
「左京さん、私なんでもします!なんなら身売りでもなんでも、貯金全部使っても構わない、せめて1ヶ月どうにかなりませんか」
「………馬鹿か、お前は。俺はヤクザだぞ。
身売りだのなんだのそんなこと、絶対に言うんじゃねぇ。」
「…すみません、軽率でした。
だけど、私、…わたしは、…」
「迫田、」
「ヘイ」
結局何も出来なかった。
左京さんも相変わらず、ポーカーフェイスだけど…
なんとも思ってないわけじゃないのに、むしろここまで待ってくれたのに私、期待に応えられなかっただけだ。
すっと横から伸びてきた骨張った手が、不器用に私の頭を撫でる。
「…気落ちしてんじゃねぇ、って、俺が言えた義理じゃねぇな。」
ー…寮を出た時かろうじて明るかった空は、いつのまにか真っ暗になっていて、今日も終わりに近づいている。
「着いたぞ。降りろ。」
「…ありがとうございます、あの…いえ、なんでもないです。」
お茶でも、なんて言える雰囲気じゃないか…。