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3月9日  【A3】

第18章 松月


 腕の中で小さく、首を振った。

 「万里君、聞いてくれてありがとう」

 その言葉で少し、ホッとしている自分がいた。

 「全部言ったの、始めてだったから…なんかスッキリしちゃったよ」
 「そっか、」
 「万里君、」
 「なんだよ、」
 「内緒だからね」

 肯定するようにギュッと腕に力を込めた。

 「当たり前ぇだろ、約束だ」
 「うん、」

 ごめんな、至さん。

 今だけはこのままで…ー

















ーーーー
ーー


 腕の中の感覚が、まだ残ってる。

 芽李さんを部屋の前まで送り届けた後、至さんから呼び出された。
 103号室の開きなれた扉の前、少しだけの気まずさをもってドアノブに手をかけた。

 「至さん、入りますよ」

 どうせゲームの誘いだろう、こんな夜中に。
 画面だけに明かりがついて、目が眩む。

 「閉めて」
 「あぁ、はい」

 ゲームオーバーの音、至さんにしては珍しい。

 「ねぇ」
 「はい」
 「野暮なこと、聞いても良い?」
 「なんすか?」
 「芽李と、どう言う関係?」

 しばらく時が止まる。

 ダンっとテーブルを勢いよく叩いた至さんに、我に帰る。

 「どうって」
 「しらばっくれても無駄。
 談話室の鍵閉めてまで密会するような、仲なんでしょ」

 鈍器で殴られたようなそんな感覚。

 「こんな夜中に、何してんの2人で」

 やってしまった、と思った。
 死角になるよう考えたつもりでいたが、どこで間違えた?

 「…至さんに関係あります?」
 「関係ないね、少なくとも今は」
 「じゃあ、どうしたんですか?」
 「俺には関係ないけど、良くないんじゃないかなって」
 「良くないって?」

 らしくないのは、俺か、至さんか。

 「談話室って、集団の中であるいみ公の場でしょ」

 一瞬焦ったと思ったが、そう言うことかと言葉を飲み込む。

 「弁えろってこと」
 「場を弁えれば至さんは、芽李さんと俺がそう言う関係になっても良いってことっすよね?」
 「…っ」

 本当に、もどかしい人達だ。

 「すみません、次は弁えますよ」

 ちょっとした意地悪。
 こんなにわかりやすいのに、盲目なんだもんな。

 「万里」
 「なんですか?」
 「せめて、千秋楽終わってからにしろよ」
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