第18章 松月
「その時はまだバレてなかった。私がここにいること…
でも、もう無理なのかもしれない」
「無理って」
「親戚の家に行った時、ここのフライヤーだけじゃない。
見たことない咲の写真、目の前にばら撒かれた。
視線が向いてない、要は、隠し撮りの写真。あんなに探しても見つからなかったのに、簡単に見つかったの」
怯えたような表情。
小刻みに震え出した肩。
「ごめん、芽李さん、」
そっとその肩に手を伸ばす。
「怖い、怖いの。カンパニーに手を出されたくない。私の居場所、これ以上うばわれたくない。
咲もね、ここにきて本当によく笑って過ごしてるの、咲が笑って過ごせる場所を護りたいの。
それって、そんなに良くないこと?」
小さな肩は俺の腕にすっぽりと収まる。
こんなに、小さいんだな…
「こんなこと、言えるわけないじゃん。
私のせいなんだもん、全部」
「芽李さんのせいじゃねぇだろ」
「至さんに奪って貰えばいいって言ったけど、そんなことできるわけないじゃん。
私は、売られたの。婚約を断れば、どうなるか分かったもんじゃない。それに婚約者の人、すごく良い人だし、その人も困らせたくない。
関係ないことに、これ以上大切な人達巻き込むわけに行かないのに、私はずるいから逃げてばっかで、すぐに手放せない。
本当なら、すぐにでも出て行かなきゃいけないのに」
「落ち着けって、」
「どうしよう、万里君」
どうしたら、どう言葉をかけたら安心して貰えるんだろうと、いつもと違って余裕なく頭を働かせる。
「秋組のみんなに、迷惑かけて、どうしよう。
幸君の衣装、あんなことになって、」
「それはもう、解決したじゃねぇか。大丈夫だよ、俺らは」
「けど」
ぎゅっと抱きしめて、背中をさする。
そんなことしか出来ない。
「絶対ぇ大丈夫だから。
俺がなんとかすっから、せめて、どうしようもねぇっつーなら、芽李さんが、ここを出てくその日まで護るから。
俺が喧嘩つぇーの、知ってんだろ。
悔しいけど、兵頭だってつぇーし、左京さんだって、臣も、太一も、他の組のやつらも、お前に守られなきゃいけねぇほど柔じゃねぇ。
衣装もどうにかなっただろ、だから、安心しろ」
「…っ、」
「無理に聞いて、悪かったな」