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3月9日  【A3】

第18章 松月


 「その時はまだバレてなかった。私がここにいること…
 でも、もう無理なのかもしれない」
 「無理って」
 「親戚の家に行った時、ここのフライヤーだけじゃない。
 見たことない咲の写真、目の前にばら撒かれた。
 視線が向いてない、要は、隠し撮りの写真。あんなに探しても見つからなかったのに、簡単に見つかったの」

 怯えたような表情。
 小刻みに震え出した肩。

 「ごめん、芽李さん、」

 そっとその肩に手を伸ばす。

 「怖い、怖いの。カンパニーに手を出されたくない。私の居場所、これ以上うばわれたくない。
 咲もね、ここにきて本当によく笑って過ごしてるの、咲が笑って過ごせる場所を護りたいの。

 それって、そんなに良くないこと?」

 小さな肩は俺の腕にすっぽりと収まる。
 こんなに、小さいんだな…

 「こんなこと、言えるわけないじゃん。
 私のせいなんだもん、全部」
 「芽李さんのせいじゃねぇだろ」
 「至さんに奪って貰えばいいって言ったけど、そんなことできるわけないじゃん。
 私は、売られたの。婚約を断れば、どうなるか分かったもんじゃない。それに婚約者の人、すごく良い人だし、その人も困らせたくない。
 関係ないことに、これ以上大切な人達巻き込むわけに行かないのに、私はずるいから逃げてばっかで、すぐに手放せない。
 本当なら、すぐにでも出て行かなきゃいけないのに」
 「落ち着けって、」
 「どうしよう、万里君」

 どうしたら、どう言葉をかけたら安心して貰えるんだろうと、いつもと違って余裕なく頭を働かせる。

 「秋組のみんなに、迷惑かけて、どうしよう。
 幸君の衣装、あんなことになって、」
 「それはもう、解決したじゃねぇか。大丈夫だよ、俺らは」
 「けど」

 ぎゅっと抱きしめて、背中をさする。
 そんなことしか出来ない。

 「絶対ぇ大丈夫だから。
 俺がなんとかすっから、せめて、どうしようもねぇっつーなら、芽李さんが、ここを出てくその日まで護るから。
 俺が喧嘩つぇーの、知ってんだろ。
 悔しいけど、兵頭だってつぇーし、左京さんだって、臣も、太一も、他の組のやつらも、お前に守られなきゃいけねぇほど柔じゃねぇ。
 衣装もどうにかなっただろ、だから、安心しろ」
 「…っ、」
 「無理に聞いて、悪かったな」
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