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3月9日  【A3】

第18章 松月


 「至さんは、弁えすぎじゃねぇの?」
 「あ?」
 「どういうつもりなんだよ、芽李さんのこと」
 「お前に関係ある?」
 「…」

 えらくドスの聞いた声で、威嚇するみたいに言う癖に、なんでこっち向かねぇんだよ。

 「関係ねぇって、思ってんのかよ」

 俺の一言を無視して、ヘッドホンに手をかける。
 耳が悪くなるほどの音量で聴いているんだろう、音漏れが凄い。
 シャットダウンってわけね、自分からふっかけてきた癖に。

 逃げんなよ、もう少し向き合えよって。

 ヘッドバンドの部分をぐいっと掴むと、案の定こっちを向く。

 「至さん、他にいう事ねぇの?弁えろってだけ?
 どんな顔してそんな事言ってるか、分かってんのか?」
 「それこそ、お前に関係ないだろ」
 「至さんにとって、芽李さんはそんなもんかよ」
 「…お前だからだよ」
 「は?」
 「お前はクソガキだけど、…」
 「なんだよ」
 「…なんでもない。とりあえず、ヘッドホン返してくれない?」
 「まだ話終わってねぇだろ」
 「終わってるんだよ」

 始まってもないのに、なんで諦めるんだよ。

 「正直、疲れたんだ」
 「え?」
 「俺、案外心狭かったのかもって思ったら、疲れたんだよ。
 いちいち、嫉妬してダサいし」
 「嘘つくなよ」
 「嘘じゃない」
 「嘘だろ」
 「…」
 「じゃあなんで、いちいちこうやって呼び出してまで、芽李さんとの仲聞いたんだよ」
 「お前こそ、なんでそうやって突っかかるんだよ」
 「俺が先に聞いたんすけど」
 「…」
 「黙るのずりぃ。嫌なら嫌って言えば良いじゃん。
 弁えろ、じゃなくて手ぇだすなとかさ、言えよ」

 ぐいっと、ヘッドホンを胸元に押し付ける。
 苦虫を潰したような顔をして、黙っている至さん。

 「本当に、俺のになってもいいのかよ」
 「…」
 「いいんだな?」

 これ以上言っても仕方ないのかと思い始めた時、やっと口を開いた。

 「なんなの、お前。なんて言わせたいの」
 「"好き"って。
 俺にじゃなくて、芽李さん本人に言えよ」
 「何、恋人の余裕って奴?」
 「芽李さんは、俺には手ぇださねぇよ。悔しいけど、弟ぐらいにしか思ってねぇよ。
 俺にいう前に、ちゃんと芽李さんと話せよ。
 …頼むよ、至さん」
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