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3月9日  【A3】

第18章 松月


 「両親が亡くなって、あまりいい扱いは受けなかった。

 でも、4人で住んでいたお家の大家さんがすごくいい人でね。
 家賃も払えないのに、アパートを取り壊すまではそのままにするって言ってくれてね。

 家も何ヶ所か変わったんだけど、最後にお世話になった親戚は、私たちよりも大きい子供がいたんだ。
 
 必要最低限の生活は送らせてもらってたけど、ある日咲が違う家に養子にだされてね、そこから変わったの。

 …その方が都合が良かったんだとおもう。

 2人分養育するお金がなくなっても、私は、年頃の手のかかる子供達のオモチャにちょうど良かったんじゃないかなって。

 咲が養子に出される前も、言葉にもしたくないようなこと、結構されたりとかして、結構キツくて、でも、2人の生活を護るためって思えば平気だった。

 いなくなったらもう無理で、耐えられなくなって逃げたの。
 大家さんが匿ってくれた。

 何回目かの法事の日、今年こそはって思ったのに、結局咲に会えずじまい、挙げ句の果てにかちんってくること言われて、それでも、高校を卒業してすぐ働いて、今までの分の仮は返したつもりだった。

 他にもちゃんと貯めて、会社の倒産でようやく咲を探すのに本州まで来て、色々あってここにお世話になる事になった。
 カンパニーでの毎日は、その日暮らしの時もあったけど、辛いことなんてなかった。
 いよいよ、潰れるかもってなった時は流石に肝が冷えたけど。

 支配人や、左京さんの夢が私の夢になって、それが咲に繋がって、いい方向に行ってるって思った。

 夏組も始動してって時に、その親戚から連絡がきたの。
 咲也が見つかったって。

 怖くなって、話を聞きに故郷に戻った。
 罠だなんて思いつかなかった。

 親戚の会社が倒産して、お金が必要になったみたい。咲に手を出さない代わりに、婚約しろって。

 まぁ、私もいい歳だし。

 それに、世話をした分の利子は、まだもらってないってね」

 人ごとのように言う。
 仕方ないと、諦めて言う。

 「なんだよそれ…」

 そんな言葉しか出てこない。

 「でも、幸い、婚約者の人がとても優しい人でね、すごく良くしてくれて、この冬が終わるまでの猶予もその人が守ってくれてるの。
 春になったら、私はその人と結婚する」
 「いいのかよ」
 「よくないって、いえないよ」
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