第18章 松月
side 万里
自分の入る隙がないことなんて、知っていた。
芽李さんのことは、多分じゃなく、一目惚れだった。
喧嘩した後、あんなダセェ姿の俺に、そっと絆創膏差し出す奴なんて今までいなかった。
怯えた目で避けてくか、ゴミを見るような目で避けてくか。
迷子で困ってたくせに、自分のことを差し置いて怪我をしてるからって絆創膏を差し出す奴、変わってんなって思った。
けど、弟がいるって聞いた時は、あん時も俺に弟を重ねたのかと思ったら、腑に落ちた。
弟っつう咲也に会ったら、俺とは正反対で、思い重ねるのは無理がねぇ?と目を疑ったけど、優しい人だから、喧嘩でもなんでも怪我は怪我、自業自得なのにそれでも見逃してくれるわけないんだろうなって思った。
「謝んなよ」
芽李さんのことは好きだけど、同時にどんな奴にでも手を差し伸べられるのすげぇなって、ある意味咲也と同じように俺と正反対の芽李さんは、多分憧れに近かったんだよな。
ここ数日一緒に過ごしてみて、それがよくわかった。
至さんの、芽李さんを見る目が、一緒にいる時の慈しむような表情が、俺にはまだできねぇって思った。
あんなに強くは、思えねぇよ。って、
「謝んなくていーよ。初恋は叶わねえって知ってる」
だから、せめて戯けてみせた。
芽李さんが誰を想ってたって、俺がアンタに救われたのには変わりねぇんだ。
つまんねぇって、無味乾燥な毎日って思って腐ってたのに、嫌がらせを受けてもなんでも、芝居に向き合える毎日は駆け出しだけど、楽しい。
芽李さんの一言が俺を変えるきっかけになったんだから。
芽李さんがあいつらに言えないこと、受け止めてやるくらい、してやりたいんだよって。
「じゃあ、やっぱり私のも叶わないね」
「え?」
「…うまく言葉に出来ないくらい、好きって言葉じゃ足りないくらい、至さんのこと想ってる」
「…」
「それでも、婚約者もいるし、春に結婚も決まってる」
そこまでは想像してなかった。
婚約者がいると聞いても、実感がなかったのはそんなにすぐなことだと考え付かなかったからだ。
「結婚のことは、咲も知ってるけど、他のみんなにはいってない。
言うようなことでもないって思ってるから」