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3月9日  【A3】

第18章 松月


 カチッとドライヤーのスイッチをオフにする。

 「芽李さん、さんきゅ」
 「うん」

 コードをまとめて、コトッとテーブルに置く。

 「で、さっきの話の続きだけど」
 「ん」
 「…その前に、」

 立ち上がった万里君が、ドライヤーを定位置に戻しついでにガチャっと談話室の扉の鍵をかけた。

 「これなら誰も立ち入らねぇだろ、誰にも聞かれたくないみたいだし」

 そして私の隣に座る。

 「本当は俺にも言いたくねぇんだろうけど。妙なシコリ残して、このまま着き進めるほどまだ大人じゃねぇんだ」

 そう言われて仕舞えば、考えていた誤魔化すための言葉もうまく紡げなくなる。

 「ゴット座じゃ、ないかもしれない」
 「はぁ?」
 「ゴット座っていう劇団が前にフライヤー破いたことがあって、だから、最初はそっち疑ってた」
 「あぁ」
 「けど、そうじゃないってわかって」
 「なんでだよ?」
 「知り合いにゴット座の子がいるから、その子が違うっていってたから。…それよりも、」

 これを言ったら、最後になるかもしれない。

 「うん」
 「万里君、おねがい」
 「…」
 「誰にも言わないで、咲にも、至さんにも。お願い」
 「あぁ」
 「嫌がらせしてきてるの、万里くんと2回目に会った時、あの時の電話の相手かもしれない」

 こんなこと、高校生に話すべきではないのかもしれない。
 咲にも、至さんにも言えない、でも誰かに聞いてほしかったのかもしれない。

 眉を顰める万里君の顔が、横目に見えて俯く。
 どうしようもなく、怖かった。

 「親戚って言ったよな?」

 コクッとうなづく。

 「何者、そいつ」
 「だから、親戚」
 「それで?咲也と至さんに言うなってどう言う意味?」
 「…咲にはかい摘んで話したの。冬が終わったら、また行かなきゃいけないから」
 「どこに?」
 「つい最近まで、行っていたところに」
 「至さんはそれ知ってるのか?」

 首を振る。

 じわっと目が潤む。
 本当に、こんなのずるい。
 私を好きって言ってくれる、万里君の前で残酷なことを言う。

 「好きな人と、…」
 「婚約者が違うってやつ?」

 あぁ、言いたくないな。

 それでも、ここまで言ってしまったのに、今更言わないなんて、それもそれでずるい。

 「万里君、ごめんなさい」
 
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