第18章 松月
カチッとドライヤーのスイッチをオフにする。
「芽李さん、さんきゅ」
「うん」
コードをまとめて、コトッとテーブルに置く。
「で、さっきの話の続きだけど」
「ん」
「…その前に、」
立ち上がった万里君が、ドライヤーを定位置に戻しついでにガチャっと談話室の扉の鍵をかけた。
「これなら誰も立ち入らねぇだろ、誰にも聞かれたくないみたいだし」
そして私の隣に座る。
「本当は俺にも言いたくねぇんだろうけど。妙なシコリ残して、このまま着き進めるほどまだ大人じゃねぇんだ」
そう言われて仕舞えば、考えていた誤魔化すための言葉もうまく紡げなくなる。
「ゴット座じゃ、ないかもしれない」
「はぁ?」
「ゴット座っていう劇団が前にフライヤー破いたことがあって、だから、最初はそっち疑ってた」
「あぁ」
「けど、そうじゃないってわかって」
「なんでだよ?」
「知り合いにゴット座の子がいるから、その子が違うっていってたから。…それよりも、」
これを言ったら、最後になるかもしれない。
「うん」
「万里君、おねがい」
「…」
「誰にも言わないで、咲にも、至さんにも。お願い」
「あぁ」
「嫌がらせしてきてるの、万里くんと2回目に会った時、あの時の電話の相手かもしれない」
こんなこと、高校生に話すべきではないのかもしれない。
咲にも、至さんにも言えない、でも誰かに聞いてほしかったのかもしれない。
眉を顰める万里君の顔が、横目に見えて俯く。
どうしようもなく、怖かった。
「親戚って言ったよな?」
コクッとうなづく。
「何者、そいつ」
「だから、親戚」
「それで?咲也と至さんに言うなってどう言う意味?」
「…咲にはかい摘んで話したの。冬が終わったら、また行かなきゃいけないから」
「どこに?」
「つい最近まで、行っていたところに」
「至さんはそれ知ってるのか?」
首を振る。
じわっと目が潤む。
本当に、こんなのずるい。
私を好きって言ってくれる、万里君の前で残酷なことを言う。
「好きな人と、…」
「婚約者が違うってやつ?」
あぁ、言いたくないな。
それでも、ここまで言ってしまったのに、今更言わないなんて、それもそれでずるい。
「万里君、ごめんなさい」