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3月9日  【A3】

第18章 松月


 「ドライヤーは?」
 「あっち」
 「…もう、仕方ないな」

 渋々立ち上がり、ドライヤーに手を伸ばす。

 「あれ?こんなのあったっけ?」
 「俺専用ー。早く乾くんだわ」
 「万里君髪の毛長いもんね」
 「そーそー」

 定位置に戻り、万里君の頭に手を伸ばす。

 「失礼します」
 「へいへい」
 「熱かったら言ってね」
 「なぁ」
 「ん?」

 まだスイッチも入れてないと言うのに、どうしたんだろう。

 「変なこと言っていいか?」
 「なに?」
 「芽李さん、なんか知ってる?」
 「なんかって何?」
 「単刀直入に言うけど、嫌がらせの件について、心当たりあるんじゃねぇのかなって。堪だけど」

 ドキッとする。
 冷や汗が流れる。

 「勘違いすんなよ、疑ってるわけじゃねぇから」

 それって、じゃあ、どう言う意味だ。

 「心配なんだよ、アンタのこと」
 「なんの話?」
 「俺はまだ高校生だし、芽李さんは眼中に至さんと咲也しかねぇみたいだけど」

 体ごと振り向いた万里君が上目遣いで、私を捉える。

 「俺に絆創膏くれたあの日から、芽李さんのこと…好きだ。
 花屋の仕事手伝った日も芽李さん傷ついてたよな。
 身内だからって、誤魔化したけど…
 芽李さんがカンパニーに戻ってきてからも、やっぱりずっと気になってた。
 監督ちゃんに対する真澄じゃねぇけど、アンタのこと見てたら様子がおかしい事くらい、分かる」
 「…」
 「もう、他人の距離じゃねぇよ。
 喧嘩だって、怪我だって、もうしばらくはしてねぇよ。
 それに、秋組のリーダーだぜ、俺。
 だからさ、少しくらい頼ってくれてもいいんじゃねぇの?」

 瞳を揺らした万里君に、どうすればいいかわからなくなる。
 咲には詳細はかい摘んで言ってある。
 臣君からは、説明してから行けって言われてる。

 「…万里君、髪乾かさないと」
 「誤魔化すなよ」
 「髪乾かしたら、言う」

 そう言うと、姿勢を戻し大人しくなる。

 ずるい私は髪を乾かす間に与えられた、少ない時間で考える。
 万里君が納得してくれる上手い言い訳。

 万里君の髪に指を通す。
 滑らかで、ふんわりした指通り。
 首筋に、乾かしきれなかった水滴が伝う。

 万里君は何も言わずに乾くのを待っている。
 
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