第18章 松月
ドタバタで終わった3日目の夜。
咲のおかげでなんとか調子を持ち直し、おまけにお手伝いもしてもらったから、夕飯も我ながらなかなかの出来になったと思う。
盗まれた小道具も、迫田さんが買ってきてくれたおかげで、明日はなんとかなりそうだと、みんな安堵していた。
「ごめんね、洗い物手伝ってもらって」
「いえ、いつも美味しいご飯作ってもらってるお礼です」
「いつもって、…臣君が来てからはだいぶ楽させてもらってるけどね」
「はは」
それぞれが部屋に戻って、今は臣君と2人でキッチンに立っている。
「お芝居終わって、疲れてない?」
「むしろ、アドレナリン出てるみたいで落ち着かないんです。
気分転換にもなるし」
手際がいい彼のおかげで、あっという間に家事が終わる。
「臣君、いい旦那さんになりそう」
「ははっ、ありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとうございます」
「いえいえ。あ、そうだ。明日の朝食何にします?」
「なにがいいかな、うーん。卵に牛乳…フレンチトーストとか?」
「ふふ」
「ん?」
「あ、いえ。十座が喜びそうだと思って」
臣君は本当によくみんなのことを観てる。
だけど、私だって臣君含めみんなのこと観てるつもりだ。
「ダウト」
「何がです?」
「いま、なんて思ったの?」
「…卵料理好きなんだなって思って」
「はい?」
「監督はカレー、十座は甘党、芽李さんは卵かって」
「な、」
「みんなそれぞれ好みはあると思いますけど、芽李さんも監督や十座と同じように、わかりやすいなって」
思わずポカーンとしてしまう。
クスッと笑った臣君に、デューイの片鱗をみる。
「私わかりやすい?え?」
「はい、大分」
「だいぶ?!」
「大分です」
「意識してなかったんだけど、卵のこと」
「気づけて良かったですね?」
なんとなく、納得いかないと思いながらも手を動かす。
臣君も、私のことを見てたらしい。
「臣君はすごいね。視野が広いって言うか」
「そうですか?」
「臣ママだ」
「なんですかそれ」
「左京さんはパパ。十座君はお兄ちゃんで、太一君は末っ子。万里君は近所のヤンキー」
なんて言ってると、音もなく近づいてきた近所のヤンキー。
「誰がヤンキーだ、コラ」