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3月9日  【A3】

第18章 松月


 ドタバタで終わった3日目の夜。

 咲のおかげでなんとか調子を持ち直し、おまけにお手伝いもしてもらったから、夕飯も我ながらなかなかの出来になったと思う。

 盗まれた小道具も、迫田さんが買ってきてくれたおかげで、明日はなんとかなりそうだと、みんな安堵していた。

 「ごめんね、洗い物手伝ってもらって」
 「いえ、いつも美味しいご飯作ってもらってるお礼です」
 「いつもって、…臣君が来てからはだいぶ楽させてもらってるけどね」
 「はは」

 それぞれが部屋に戻って、今は臣君と2人でキッチンに立っている。

 「お芝居終わって、疲れてない?」
 「むしろ、アドレナリン出てるみたいで落ち着かないんです。
 気分転換にもなるし」

 手際がいい彼のおかげで、あっという間に家事が終わる。

 「臣君、いい旦那さんになりそう」
 「ははっ、ありがとうございます」
 「こちらこそ、ありがとうございます」
 「いえいえ。あ、そうだ。明日の朝食何にします?」
 「なにがいいかな、うーん。卵に牛乳…フレンチトーストとか?」
 「ふふ」
 「ん?」
 「あ、いえ。十座が喜びそうだと思って」

 臣君は本当によくみんなのことを観てる。
 だけど、私だって臣君含めみんなのこと観てるつもりだ。

 「ダウト」
 「何がです?」
 「いま、なんて思ったの?」
 「…卵料理好きなんだなって思って」
 「はい?」
 「監督はカレー、十座は甘党、芽李さんは卵かって」
 「な、」
 「みんなそれぞれ好みはあると思いますけど、芽李さんも監督や十座と同じように、わかりやすいなって」

 思わずポカーンとしてしまう。

 クスッと笑った臣君に、デューイの片鱗をみる。

 「私わかりやすい?え?」
 「はい、大分」
 「だいぶ?!」
 「大分です」
 「意識してなかったんだけど、卵のこと」
 「気づけて良かったですね?」

 なんとなく、納得いかないと思いながらも手を動かす。
 臣君も、私のことを見てたらしい。

 「臣君はすごいね。視野が広いって言うか」
 「そうですか?」
 「臣ママだ」
 「なんですかそれ」
 「左京さんはパパ。十座君はお兄ちゃんで、太一君は末っ子。万里君は近所のヤンキー」

 なんて言ってると、音もなく近づいてきた近所のヤンキー。

 「誰がヤンキーだ、コラ」
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