第18章 松月
「月岡さん!」
そう、常連さんの"つむちゃん"こと、月岡さんだ。
「どうしてここに?…って、買い物ですよね」
「そうです、たまたま仕事の帰りで」
ニコニコと笑っている。
成人男性らしからぬ、可愛さの塊である。
うちの子には、負けるけど…って。
「あの!オレ、佐久間咲也です!」
私と、月岡さんの間に入ってにっこりと笑う咲。
挨拶できてえらい、かわいい。
可愛いの渋滞。
「あ、月岡紬です。"芽李さん"のお知り合いですか?」
そっか、まだ紹介してなかったか。
「咲は、弟なんです」
そう言うと、一間置いてクスッと月岡さんが笑った。
「ふふ、…そうでしたか。可愛らしい、弟さんですね」
さすが月岡さん。
一発で咲の良さ見抜くなんて、抜かりない!
と、ここぞとばかりに自慢したかったけど、生憎、咲への愛を言い尽くせるほど、語彙力は持ち合わせていない。
勉強しとけばよかったとこういうときばかりは、毎度後悔する。
「そうなんです、とっても可愛くて、優しくて、かっこよくて、頑張り屋さんの自慢の弟です!」
もっと似合う言葉はあるはずなのに、全然思いつかない。
「ちょ、やめてよ。芽李姉ちゃん」
アワアワし出す咲。
そんなところも可愛いしかない。
「あはは。仲、いいんですね。羨ましいです」
私も含め、微笑ましく見られていたことに気づいて、少し照れ臭く話題を変える。
「月岡さんもご兄弟いらっしゃるんですか?」
「あ…いえ。一人っ子で…」
感じた少しの違和感。
「兄弟のように育った幼馴染がいたんですけど、今はもう…
大人になると、疎遠になったりもしちゃいますしね」
「なるほど」
「って、すみません長々と。俺そろそろ帰りますね」
「あぁいえ、私も」
「また聞かせてください、弟さんのこと。弟さんも、また」
「あ、はい」
ぺこっと会釈をして、去っていく月岡さんの背中を眺める。
「さっきの人」
「お花屋さんの常連さんなの」
「そうなんだ。…少し、寂しそうだったね」
「うん。どうしたんだろうね、急に」
「うん…あ、そろそろ買い物しないと、本当にみんな帰ってきちゃうよ、芽李姉ちゃん」
「確かに!急ごう!」
「うん!」