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3月9日  【A3】

第18章 松月


 「月岡さん!」

 そう、常連さんの"つむちゃん"こと、月岡さんだ。

 「どうしてここに?…って、買い物ですよね」
 「そうです、たまたま仕事の帰りで」

 ニコニコと笑っている。
 成人男性らしからぬ、可愛さの塊である。
 うちの子には、負けるけど…って。

 「あの!オレ、佐久間咲也です!」

 私と、月岡さんの間に入ってにっこりと笑う咲。
 挨拶できてえらい、かわいい。
 可愛いの渋滞。

 「あ、月岡紬です。"芽李さん"のお知り合いですか?」

 そっか、まだ紹介してなかったか。

 「咲は、弟なんです」

 そう言うと、一間置いてクスッと月岡さんが笑った。

 「ふふ、…そうでしたか。可愛らしい、弟さんですね」

 さすが月岡さん。
 一発で咲の良さ見抜くなんて、抜かりない!

 と、ここぞとばかりに自慢したかったけど、生憎、咲への愛を言い尽くせるほど、語彙力は持ち合わせていない。
 勉強しとけばよかったとこういうときばかりは、毎度後悔する。

 「そうなんです、とっても可愛くて、優しくて、かっこよくて、頑張り屋さんの自慢の弟です!」

 もっと似合う言葉はあるはずなのに、全然思いつかない。

 「ちょ、やめてよ。芽李姉ちゃん」

 アワアワし出す咲。
 そんなところも可愛いしかない。

 「あはは。仲、いいんですね。羨ましいです」

 私も含め、微笑ましく見られていたことに気づいて、少し照れ臭く話題を変える。

 「月岡さんもご兄弟いらっしゃるんですか?」
 「あ…いえ。一人っ子で…」

 感じた少しの違和感。

 「兄弟のように育った幼馴染がいたんですけど、今はもう…
 大人になると、疎遠になったりもしちゃいますしね」
 「なるほど」
 「って、すみません長々と。俺そろそろ帰りますね」
 「あぁいえ、私も」
 「また聞かせてください、弟さんのこと。弟さんも、また」
 「あ、はい」

 ぺこっと会釈をして、去っていく月岡さんの背中を眺める。

 「さっきの人」
 「お花屋さんの常連さんなの」
 「そうなんだ。…少し、寂しそうだったね」
 「うん。どうしたんだろうね、急に」
 「うん…あ、そろそろ買い物しないと、本当にみんな帰ってきちゃうよ、芽李姉ちゃん」
 「確かに!急ごう!」
 「うん!」

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